ソーシャルレンディングの借り手情報の匿名化解除は本当に良いこと?

ソーシャルレンディングでの借り手情報の匿名化解除が近づいてきました。

匿名化解除でソシャレンが良くなるという説が多いですが、果たして本当にそうでしょうか?

実際にソシャレンで投資する中で、匿名化に不満を感じていた張本人の一人として考えてみました。

この記事の著者
投資家・ブロガー
タロウ

ソーシャルレンディング、不動産クラウドファディング専門の投資家です。
2018年にソシャレン・クラファン投資を始め、これまで300件を超える案件に1億5千万円以上を投資し損失ゼロ。
安全性を最重視した投資情報を発信しています。

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匿名化解除とは?

ソシャレンは貸金業

ソーシャルレンディングは投資家から集めたお金を企業に貸し付ける投資です。

法律論を脇に置くと、僕たち投資家がソシャレン業者を経由して企業に対して貸金業を営んでいる形です。

本来であれば、投資家としては借り手企業の情報を詳しく知りたいところです。

どんな企業か分からないのにお金を貸すなんて怖いですからね。

借り手企業の匿名化問題

ところが、ソーシャルレンディングに適用される法律は貸金業法です。

そして元々貸金業法は、消費者金融業者などから借り手を保護するために作られた法律です。

このため、借り手である企業を保護するために、借り手情報を公にしないように金融庁がソシャレン業者に対して指導しています。

これがいわゆる借り手企業の匿名化問題です。

貸金業法のミスマッチ

しかし、消費者金融問題では借り手である個人が弱者でしたが、ソーシャルレンディングではそうではありません。

個人投資家の方が立場的には弱く、強い借り手企業を保護するというのは理屈に合いません。

そもそもソシャレンに貸金業法を適用したことが無理筋でした。

しかし、行政府である金融庁が適用法令を犯すわけにはいきません。

金融庁としては貸金業法を遵守する以外に選択肢はなく、むしろソシャレンに適した法律を速やかに作らなかった立法府の怠慢であると僕は思っています。

匿名化解除

ただそうは言っても、借り手匿名化が問題であることは事実です。

実際、例えばラッキーバンクが親族企業に不適切な貸付を行っていたなど、匿名化に起因する問題、そして投資家の被害が起きています。

そのため金融庁は2018年6月に、18年度中に匿名化を解除する方針を発表しました。

2018年度は今年の3月31日まで。解除の時はあと2ヶ月あまりに迫ってきました。

想定されるメリット

さて、匿名化が解除されると投資家にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

借り手企業の情報公開

借り手企業について公開される情報、つまり、現時点ではクローズドにされている情報は大きく2つあります。

借り手企業自身についての情報

まず、借り手企業自身についての情報です。

現在は「港区の不動産業者AB社」のように、アルファベットで表記されています。

これが大日本不動産のように具体的な企業名が示されることが期待されます。

担保についての情報

もう一つは担保についての情報です。

担保となる不動産物件について現在は「京都市の300平米の土地」くらいまでしか公表されません。

それが、「京都市下京区四条通河原町西入ル真町52番地先の阪急電鉄河原町駅の土地300平米」のように具体的に示されることが期待されます。

透明性が増す

このように情報がより具体的に示されることが、投資家にとってプラスになるとされています。

具体的な企業が分かれば、借り手に返済能力があるか分かる。

担保物件が具体的に分かれば、担保評価額を正確に判断することができる。

その結果として、投資家がより的確な投資判断ができると考えられるからです。

本当に有益になるのか?

しかし、本当にそうでしょうか?

投資家が判断できるか?

AB社が大日本不動産だと分かったとして、大日本不動産の経営状態、あなたは分かりますか?

上場していなければ経営数値は見えないですよね。それでどうやって大日本不動産の返済能力を判断するというのでしょうか?

京都市の土地が阪急電車の河原町駅だと分かった。

分かったところで不動産鑑定士でもない我々パンピーが、どうやって300平米の土地の評価額を算出できると言うのでしょうか?

特に再エネ系

特に問題なのが再生エネルギー系です。

三重県南伊勢町に太陽光発電所を建設するCD社。多くはその目的で作られた特別目的会社です。経営状態も何もあったものじゃない。

さらに、太陽光発電くらいにしか使い道がない土地なんて、担保価値もへったくれもありません。

経産省のIDがいくらで売れるか、いったいソシャレン投資家のうちの何人が分かるというのでしょうか?もちろん僕は分かりません!笑

透明化されても判断は容易ではない

情報が公開されたところで、情報の受け手に情報を分析する技術、知識、能力がなければ活用できません。

大日本不動産だと分かった、河原町駅だと分かった。

それで投資判断を的確にできる人、的確に判断するに足る能力を持つ人がどれだけいるのか?

ぶっちゃけ、僕には無理です。もちろん、情報が公開されること自体は率直に嬉しいです。

でも、公開されたところで借り手企業や担保物権を正確に分析し判断するだけの能力が、残念ながら僕にはありません。

ですのでできる限り自分で調べるけれど、最後はソシャレン業者を信じて託すしかない。だからこそソシャレンでは業者選びが最重点である。

匿名化が解除されてもこの状況は変わらないと思っています。

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抑止効果はある

ただし、ソシャレン業者に対する不正抑止効果は間違いなく期待できます。

情報を公開する以上、下手な企業に貸すことはできない。いい加減な担保評価はできない。

ママが経営する不動産会社に融資したり、川崎の丘の上の病院を担保にしたり。

そういったいい加減な仕事はできにくくなる。

ソシャレン業者の不正を抑止する効果が期待できることは間違いありません。それは認めます。

想定されるデメリット

しかし匿名化解除には、逆にデメリットもあると考えます。

借り手にはデメリットしかない

まず、借り手企業にとってです。少なくとも2つのデメリットが指摘されます。

風評被害

大日本不動産はソーシャルレンディングから資金融資を受けている。

ってことは銀行に貸してもらえないような経営状態なんだなみたいな。

風評被害は言い過ぎかもしれませんが、借り手企業として痛くない腹を探られると言うか、まったく喜ばしくないですよね。

経営計画の流出

大日本不動産が10億円の資金を調達して青山の中古マンションを取得しようとしている。

それが明るみになったら、ライバル企業が何らかの対抗策を打つ可能性は当然あります。

これも借り手企業にとってデメリットでありリスクです。

不動産クラファンとは事情が違う

不動産投資型クラウドファンディングは情報公開しているのだからクラファンもできるはず、という意見があるかもしれません。しかしそれは間違いです。

不動産クラファンでは投資対象となる物件の情報を公開するだけです。

それによってクラファン業者が被るデメリットはありません。

情報掲載時点での対象不動産の所有者名は示されますが名前だけです。勅使河原庄左衛門みたいな特異な名前でない限り、個人が特定されることはありません。

せいぜい、対象物件の構造物に石綿が含まれているとか、荒川区の浸水ハザードマップのデンジャラスエリアに立地しているとかが分かる程度でしょう。

情報公開によるデメリットが、ソシャレンと不動産クラファンとではまったく異次元であることは理解すべきです.

ソシャレン市場の縮小

ソシャレンで資金調達すると幅広い情報公開が求められる。そして、それが借り手にとってデメリットでしかない。

そうなると、現在ソシャレンを利用している借り手企業はどうするか?

利息は高いし情報公開しないといけないし、だったらノンバンクから借りるよ。

そうやってソシャレンから去っていく借り手が増える可能性があるのではないでしょうか?

匿名化解除がソシャレン市場の縮小につながるリスクがあると僕は思うのです。

投資家にとって匿名化は本当に良いのか?

僕も当初は匿名解除大歓迎、これでソシャレンが安全になると、諸手を挙げて喜んでいました。

しかしよくよく考えてみると、匿名解除されたところで必ずしも投資判断の精度が上がるとは限らない。

業者を信じて託す他ない状況が劇的に変わるわけでもない。

業者の不正抑止効果は間違いなくあるけれど、借り手が減ってソシャレン市場が縮小するリスクがある。

トータルで考えた時に、匿名解除は投資家にとって本当にプラスなのだろうか?

僕自身、結論が出せず迷っています。みなさんはどう思いますか?

金融庁も困っているのでは?

さて、匿名化を打ち出した金融庁さんです。

金融庁の英断

やたらと批判される金融庁ですが。

匿名化を指導してきたのに一転して匿名化解除。180度の方向転換であり、自らの誤りを認める行為です。

無謬性を旨とする官僚組織としては英断だったと思います。

その他のやらかしていることはさておき、匿名化解除に方針転換したこと自体は評価されて然るべきです。

金融庁の動きが鈍っている

それはさておき、あと2ヶ月足らずに迫っているのに金融庁から何のアナウンスもありません。

匿名解除に向けた具体的な動きが鈍っているように感じます。

18年度中の解除は間に合わず、19年度にずれ込むかもしれません。

想定外だったのでは?

もしかしたら、金融庁は頭を抱えているのではないでしょうか?

投資家保護のために匿名化解除が必要だと考え、その方針を示した。

しかし、実際にソシャレン業者と協議を進める中で、実は解除によるデメリットが小さくないことが判明した。

これはマズイ。下手に匿名解除なんてできたもんじゃないぞ。

かと言って、180度の方針転換で匿名解除を打ち出した手前、今さら解除しませんなんて霞が関が裂けても言えない。

あっちゃ~、と頭を抱えているのではないでしょうか?

金融庁と業界の判断を注視

匿名化に問題があることは事実です。

不正抑止効果など匿名解除にメリットがあることも事実です。

しかし、匿名解除ですべての問題が解決されるわけではありません。

そして、匿名解除によるデメリットもある。

解除されればソシャレンが良くなるという判断は早計です。

匿名解除問題がこの先どうなるのか、金融庁の判断を見守りたいと思います。

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