覚醒剤や麻薬などの薬物犯罪が跡を絶ちません。
最近では薬物に関係する少年犯罪など低年齢化も進んでいます。
そんな中、薬物犯罪に対しても厳罰を科すべきという声も増えています。
薬物犯罪者に死刑を科す国としては、お隣の中国が有名です。
しかし、実は世界には中国以外にも薬物犯罪者を極刑に処す国があります。
ここではそういった国々を紹介します。
なお、軍法による死刑は対象外とします。
また、シリア、シンガポール、台湾、パキスタンは根拠法など明確な根拠が不明であったため除外しています。
東アジア
北朝鮮
薬物についての犯罪が以下のいずれかに該当する場合、死刑に処され、併せて財産が没収されます。(刑法追加条項第11条、12条)
- 薬物の密輸や密売が極めて重大なものである場合
- 薬物及びその原料の貯蔵、供給に関する規則への違反が極めて重大なものである場合
中国
薬物の密輸、販売、運搬、製造を行い、以下のいずれかに該当する場合、懲役15年または無期懲役または死刑に処され、併せて財産が没収されます。(刑法第347条、355条)
- 1kg以上のアヘン、または50g以上のヘロインまたはメタンフェタミン、または大量の麻薬を密輸、販売、運搬、製造した場合
- 薬物の密輸、販売、運搬、製造集団の首謀者である場合
- 薬物の密輸、販売、運搬、製造を武装して行った場合
- 検査や拘留、逮捕への抵抗が著しかった場合
- 組織的な国際的薬物販売へ関与した場合
- 薬物の密輸、販売を行う犯罪者や販売業者、または薬物の使用者に対し、国が管理する麻酔剤などの薬物を、その管理者が提供した場合
東南アジア
インドネシア
ケシ、生アヘン、精製アヘン、コカの木・葉、コカイン、大麻、テトラヒドロカンナビノール類、メチルフェンタニル類、ヒドロキシフェニル、デソモルヒネ、ヒロイン、ケトベミドンなどに係る犯罪について以下の刑が課されます。(麻薬法第80~82条)
- 違法に上記薬物の生産等を行った場合(特に陰謀、組織犯罪である場合)…死刑、終身刑、20年以下の懲役刑または10億ルピアの罰金刑
- 違法に上記薬物の運送、移送等を組織的に行った場合…死刑、終身刑、4年以上20年以下の懲役刑または5億ルピア以上40億ルピア以下の罰金刑
- 違法に上記薬物の輸出入、卸売、分配、売買、配送、ブローカー行為、交換を行った場合(特に陰謀、組織犯罪である場合)…死刑、終身刑、20年以下の懲役刑または10億ルピア以下の罰金刑
タイ
ヘロイン、Dextrolyzer、LSD、アンフェタミンの所有等について、以下の通り処罰されます。(麻薬法第7条、15条、65条、66条、93条)
- 販売目的で生産、輸出入した場合…死刑
- 純成分で20gを超える量を許可なく販売または販売目的で所有した場合…100万~500万バーツの罰金刑付き終身刑、または、死刑
- 女性または責任能力を持たない者に対し脅迫や強要の目的でヘロインを投与した場合…死刑
ベトナム
下記に該当する場合、20年の懲役、終身刑または死刑に処されます。(刑法第193条、194条)
- 以下の麻薬を不法に生産した場合
- 5kgを超えるケシ樹脂、マリファナ樹脂、コカイン樹脂
- 100gを超えるヘロイン、コカイン
- 300gを超える個体のその他の麻薬
- 750mlを超える液体のその他の麻薬
- 合計で上記規定量を超える上記4項に該当する2種類以上の麻薬
- 以下の麻薬を不法に所有、運搬、売買した場合
- 5kgを超えるアヘン樹脂、マリファナ樹脂、、コカイン樹脂
- 100gを超えるヘロイン、コカイン
- 75kgを超えるマリファナの葉、花、果実、コカの葉
- 600kgを超える乾燥させたケシ果実
- 150kgを超える生のケシ果実
- 750mlを超える液体のその他の麻薬
- 合計で上記規定量を超える上記4項に該当する2種類以上の麻薬
マレーシア
以下の罪を犯した者は死刑に処されます。(危険薬物関連法第39条B)
- 危険薬物の密売
- 危険薬物密売の教唆
- 危険薬物密売の準備行為及びその教唆
中央・南アジア
インド
大麻やアヘンの密売など麻薬取引に関連する犯罪で有罪判決を受けた者が、特定の種類及び量の麻薬、向精神薬の製造、密売、資金調達に関する別の犯罪に関与した場合、死刑に処されます。(麻薬関連法第37条A)
バングラデシュ
大量の薬物を所持した場合、薬物の種類と重量によって、最高刑が死刑または無期懲役となります。(薬物規制法第9条、19条)
- ヘロイン、コカイン、コカイン派生物…25g以上
- ペチジン、モルヒネ、テトラヒドロカンナビノール…10g以上
- アヘン、大麻樹脂、アヘン派生物…2kg以上
- メサドン…50g以上
中東
アラブ首長国連邦
薬物の所持等についてその薬物の種類に応じ、以下の通り処罰されます。(反麻薬法第45条、52~54条)
- 犯罪を目的として薬物を使用した扇動を行い人を死に至らしめた場合
- 麻薬取締りに従事する公務員を故意に殺害した場合
- 別表に定める麻薬、植物とその種子を密売目的で調達、輸出入、製造、生産、所持、取得、乱用、栽培を行った場合
- 上記項目について該当する薬物が別表に定めるものであり、再犯である場合
イエメン
以下の薬物犯罪は死刑に処されます。(麻薬規制法第33~35条、41条、42条)
- 密売目的での薬物の輸出入、製造
- 密売目的での薬物の所持、取引、栽培
- 麻薬所持資格の不正利用
- 他者への麻薬の譲渡
- 麻薬を使用するための場所の準備
- 薬物取締りに従事する公務員の殺害
イラン
密輸等を行った薬物の種類、量などにより、死刑に処される場合があります。(反麻薬法第4、5、8、9、15条)
- 5kg以上の大麻製品、アヘン製品を密輸入、生産、流通、販売、売却した者は死刑の上、家族の一般的生活費を除いた財産を没収する
- 5キロ以上20キロ未満の大麻製品、アヘン製品の所有、隠匿、運搬で起訴され、それが再再犯である者は死刑の上、家族の一般的生活費を除いた財産を没収する。
- 20キロ以上の大麻製品、アヘン製品の所有、隠匿、運搬で起訴され、それが再犯である者は死刑の上、家族の一般的生活費を除いた財産を没収する。
- 30g以上のヘロイン、モルヒネ、コカイン及び、モルヒネやコカインの化学的誘導体を輸出入、配給、生産、取引、保管、貯蔵、隠匿、運搬した者は死刑の上、家族の一般的生活費を除いた財産を没収する。
- ヘロイン、モルヒネ、コカイン及び、モルヒネやコカインの化学的誘導体の輸出入、配給、生産、取引、保管、貯蔵、隠匿、運搬で4度に渡り有罪となり、その合計量が30gに達したものは死刑に処される。
オマーン
以下に該当する者は、死刑または25,000リアル以下の罰金刑付き終身刑に処されます。(麻薬法第43条)
- 別に定める麻薬や向精神薬を輸出入、生産、製造、密輸した場合
- 未認可で別に定める麻薬及びその原料となる植物を栽培、輸出入、密輸した場合
- 上記2項に対して資金提供した場合
上記3項について、以下に該当する者は死刑に処されます。(麻薬法第43条)
- 再犯である場合
- 麻薬取締に関わる公務員による場合
- 少年を利用した場合
- 国際的な麻薬密輸組織に関与した場合
- 権力や法的免責を乱用した場合
以下に該当する者は死刑に処されます。(麻薬法第56条、57条)
- この法律の規定や決定を執行していたり、職務執行中に暴力から身を守ろうとした当局者を襲撃し死に至らしめた場合
- この法律の規定を執行する当局者を、その職務中に殺害した場合
カタール
密売目的で麻薬や危険薬物の輸入、無許可での輸出、製造、原料植物の栽培を行い、それが再犯である場合、死刑または30万リエル以上50万リエル以下の罰金刑付き終身刑に処されます。(麻薬取締法第34条)
麻薬取締の職務を遂行する公務員を意図的に殺害した場合、及び、職務の執行に抵抗して暴行を働き死に至らしめた場合、死刑に処されます。(麻薬取締法第52条)
クウェート
以下に該当する場合、死刑に処されます。(薬物規制法第50条、薬物対策法第31条、32条、50条)
- 麻薬法に基づき職務を果たす法執行機関や公務員に対して攻撃や抵抗を行い、彼らを死に至らしめた場合
- 薬物に関する罪を犯した再犯者、公務員、犯行に際し18歳未満の少年を利用した者が、犯行にあたって組織犯罪を行った場合、もしくは、法が定める特定の薬物だった場合
サウジアラビア
薬物の密売、購入、輸出入、製造、栽培を行ったものは死刑に処されます。(根拠法不明)
バーレーン
以下に該当する場合、死刑または5,000ディナール以上50,000ディナール以下の罰金刑付きの終身刑に処されます。(麻薬規制法第23条、24条)
- 麻薬及びその含有物を無許可で輸出入した場合
- 密売目的で麻薬及びその含有物を栽培、製造した場合
- 法律で許可される場合を除いて、麻薬及びその含有物を所有、保管、売買、配送、授受したり、有償無償を問わずそれらの使用を教唆した場合
- 特定の目的で使用するために麻薬及びその含有物の保管を委託されたり所有を認可された者が、その特定の目的以外でそれらを使用した場合
ヨルダン
薬物についての下記の犯罪は死刑に処されます。(麻薬向精神薬関連法第10条)
- 薬物の密売
- 国際的な武器の密輸、マネーロンダリング、貨幣の偽造に関わる薬物の取引や販売
ヨーロッパ
該当なし
アフリカ
エジプト
麻薬の密売、製造、保持、販売、運搬の最高刑は死刑です。(麻薬法第33条、34条、40条)
スーダン
以下に該当する場合、死刑に処されます。(麻薬法第15~17条)
- 麻薬の密輸、製造を麻薬犯罪の再犯者や麻薬取締を行う公務員が行った場合
- 麻薬の密輸、製造を国際的な犯罪組織に関与して行った場合
- 麻薬の提供や密売の幇助を行い、その提供先が学生である場合、及び、教育機関内で流通させた場合
北アメリカ
該当なし
中央アメリカ
キューバ
薬物の密輸が以下に該当する場合、死刑に処されます。(刑法第190条)
- 薬物の密売、製造、運搬が公務員や政府関係者による場合
- 薬物の密売、製造、運搬が輸送に交通機関を利用した場合
- 国際麻薬取引を構成していた場合
- 16歳未満の少年を利用した場合
グアテマラ
下記に該当する薬物(麻薬、向精神薬、製造、希釈前の成分等を含む)犯罪が死者を伴う場合は死刑または懲役30年となります。(麻薬関連法第35~45条、47~52条)
- 薬物の国際的な密売(35条)
- 薬物の栽培、製造、加工、抽出、入手(36条、37条)
- 薬物の種子、葉、草木、花、薬物に相当する物の違法な輸出入、貯蔵、輸送、分配、供給、販売、密輸に関する行為(38条)
- 使用目的での薬物の所持(39条)
- 薬物及びその種子、葉、草木、花の栽培、密売の助成、奨励(40条)
- 薬物の製造、貯蔵、栽培、販売手段の提供(41条)
- 医薬品の薬物への改変(42条)
- 処方に規定されたものとは異なる薬物を含む医薬品の違法販売(43条)
- 医師による治療目的ではない薬物の違法な提供(44条)
- 薬物の密売で得た資金の違法投資(45条)
- 薬物密売を目的とした犯罪集団への所属(47条)
- 公務員による薬物犯罪者への刑罰回避や逃亡への援助(48条)
- 麻薬依存の助長、促進(49条)
- 利益を目的とした薬物犯罪への援助(50条)
- 薬物犯罪者の隠匿(51条)
セントルシア
密売など薬物犯罪に関与したものが殺人を犯した場合、死刑に処されます。(刑法第86条)
南アメリカ
ガイアナ
子供や少年に薬物を摂取させ死に至らしめた場合、死刑に処されます。(麻薬規制法第6条)
オセアニア
該当なし
分析
いくつか気づいた点を挙げます。
中東が多い
薬物犯罪の最高刑が死刑である国は、根拠が確定できたもので23ヶ国です。
このうち、半数近くの9ヶ国が中東で、特に湾岸諸国はほぼすべてが該当します。
地域 | 死刑がある国の数 |
---|---|
東アジア | 2 |
東南アジア | 4 |
中央・南アジア | 2 |
中東 | 9 |
ヨーロッパ | 0 |
アフリカ | 2 |
北アメリカ | 0 |
中央アメリカ | 3 |
南アメリカ | 1 |
オセアニア | 0 |
また、東南アジアもASEAN10ヶ国の内4ヶ国が最高刑を死刑としており、比率としてはかなり高いです。
逆に麻薬犯罪が多いことで知られる中南米はわずか4ヶ国にとどまっています。
イスラム教国が多い
最高刑を死刑としている国の6割が、多数派の宗教がイスラム教である国々です。
多数派の宗教 | 死刑がある国の数 |
---|---|
イスラム教 | 14 |
それ以外 | 9 |
中東、アフリカで死刑の国はすべてイスラム教国ですし、東南アジアの2ヶ国、インドネシアとマレーシアもイスラム教徒がマジョリティの国です。
イメージ通りですが、イスラム教国は姦淫と麻薬に厳しいですね。
公務員の権限乱用への処罰
以下の国では公務員や医師など薬物を管理、使用する立場にあるものが薬物犯罪に関与した場合、死刑に処されることがあります。
これは日本に比べると非常に厳しい刑罰です。
- 中国
- オマーン
- バーレーン
- スーダン
- キューバ
- グアテマラ
公務員の保護
以下の国では麻薬捜査官など薬物犯罪に関わる公務員を殺害した場合に死刑に処されます。
麻薬捜査官の命を守るため、これは日本でも採用してほしいと思います。
- アラブ首長国連邦
- イエメン
- オマーン
- カタール
- クウェート
世界中から学ぼう
日本は先進国ということで、何事にも上から目線になりがちです。
お手本にするのも先進国ばかりで、途上国は下に見ることが多いです。
しかし、今回の例で日本よりも格下の国でも日本より優れた法規定があります。
例えば、南米のガイアナでは子供に薬物を与え死なせた場合は死刑です。
アフリカのスーダンでは教育機関内で麻薬を流通させたら死刑です。
日本はまだまだ学ばなければならない発展途上国であり、学ぶべき国々は世界中にあるのだと、今回の調査を通して痛感しました。