金より時間、地位より自由、安定より放浪 ~オッサン個人事業主の東南アジアぶらぶら一人旅~
ベトナム2日目はただひたすら食べて終わったと書いたが、さすがに起きてから寝るまで食べる以外何もしていなかったわけではない。そんなギャル曽根みたいな胃袋は持ち合わせていない。ぶらりぶらりとホーチミンシティを歩き回っていた。そんな中で見かけたものについて書き記しておこうかと思う。
ご存知の通りベトナムは共産党一党独裁の社会主義国である。そう聞くとなんか重苦しく堅苦しい陰鬱とした社会のように思うかもしれないが決してそんなことはない。僕がマニラに引っ越して来るまで住んでいた中国もそうだが、国家の政治体制が違うだけであって、市民の生活は大して変わらない。もちろん交通インフラの充実とか公衆衛生の発達とかそういった違いはあるが、市民が好むもの求めるものというのはどこの国も大差ないものである。
その最たるものは若者が好む文化であろう。レディガガにしてもカンナムスタイルにしても国境とは無関係に全世界同時進行でヒットする。若者の好みが洋の東西を問わないのは音楽や映像に限ったことではない。食文化もまた然り。ベトナムでもファストフードは人気があるのだ。
と偉そうに言ってる張本人の僕が、まさかベトナムにあるとは思ってもいなかったのがこれ。
「ケンタ、来とったんかい。水くさいなぁ。言うといてくれたら飲みに誘ったのに。」
カーネルが一緒に飲んでくれるかは別として、まさかベトナム戦争で戦ったアメリカのファストフードが出てきてるとは思いもしなかった。しかも1店舗だけでなく市内でいくつか見かけた。そして若い子がけっこう入っているのだ。そんなお手頃価格とは思えないのに。
そして出てきているのはケンタだけではなかった。
ちょっと分かりにくいかもしれないがロッテリアである。プルコギバーガーがメニューにあったので韓国のロッテリアだろうか。
そしてまさかまさか、まままままさか、まささまか、これが出てきていたとは。
フィリピンのハンバーガーチェーン「ジョリビー(Jollibee)」。まさかベトナムに進出していたとは!
こちらはミツバチを模したキャラクターのジョリビーちゃん。
「ジョリビーちゃん、フィリピンはみんな海外に出稼ぎに行ってる貧乏国やけど、まさかジョリビーちゃんまで出稼ぎに来とったんやなぁ。毎日ちゃんと食べてるか?さみしないか?1年に1回は帰るんやで。」
大きなお世話はさておき。OFW(Overseas Filipino Workers)と呼ばれる海外で働くフィリピン人はフィリピンの人口の10%近くに達する。OFWからフィリピン国内の家族への仕送りはフィリピンのGDPの10%を占めており、それゆえ国民に海外での出稼ぎを奨励する「フィリピン海外雇用庁(POEA:Philippine Overseas Employment Administration)」という政府機関まである。フィリピンはまさに出稼ぎ大国なのである。
そしてジョリビーはこの出稼ぎフィリピン人たちの後を追って海外に進出している。香港、アメリカ、シンガポール、ドバイなど、フィリピン人がメイドや看護師、医師など様々な職業で出稼ぎをしている国に進出し、現地のフィリピン人たちに故郷の味を提供するとともに、現地の消費者をも取り込もうとしているのである。がんばれ、ジョリビーちゃん!
さて、ここではたと気づくことがある。ケンタにロッテリア、意外な伏兵ジョリビーまで進出しているのに、1社出てきていないではないか。そう、世界の巨人、マクドナルドが。市内をかなり歩いたが1件も見かけなかった。あとで調べてみたら、やはりマクドナルドはベトナムには進出していなかった。
どういった理由があるのかは分からないが、2013年7月時点でベトナムにマクドナルドは進出していない。では今後マクドナルドがベトナム市場に出てきたとして、市民の支持を受けマーケットシェアを取れるだろうか? それはひとえにマクドナルドが過去の反省を活かせるかにかかっているだろう。
中国に住んでいた時、各地を旅していて気付いたことがあった。KFCはあるがマクドナルドがない。そんな街が中国にはけっこうあった。妙に思って調べてみたところ確かにその通りで、KFCのほうが店数が倍くらいあった。
ではなぜそんなことになったかだが、メニューの現地化がKFCのほうが早かったそうだ。中国のKFCには米のごはんやおかゆ、油条という中国式揚げパンの他、木耳の冷菜といったバリバリの中華料理までがメニューに載っている。この現地化のスピードでマクドナルドはKFCに負けたとどこかのサイトで読んだ記憶がある。
そして現地化でマクドナルドが負けたのは中国だけではない。日本をはじめ世界各国のファストフード市場でトップシェアを取っているマクドナルドだが、中国以外にもトップに立てていない国がある。そんな国の一つがフィリピン。そしてフィリピンでトップシェアを取っているのが上で紹介したジョリビーなのだ。
ジョリビーは1975年にフィリピンの華僑が創業した。マクドナルドがフィリピンに進出したのは1981年なのでそこまで時期が離れているわけではない。ところが両社の店舗数には倍近い開きがある。なぜこれだけの差が付いたのか、その理由はまさにメニューの現地化にあった。
フィリピン人はコメを食べないと食事をした気にならないというほどコメ好きだ。そこでジョリビーはハンバーガーチェーンであるはずなのにメニューにコメを取り入れた。フィリピン人が好きなコメとフライドチキンの組み合わせの他、コンビーフや挙句の果てには焼き魚まで。ちょっと想像してよ。ハンバーガーチェーンで焼き魚定食やで。笑
また、フィリピン人は朝食と昼食の間、昼食と夕食の間に「ミリエンダ」と呼ばれる間食をする習慣がある。その際に好んで食されるものの一つにスパゲティがある。パスタなんて洒落たものではなく、甘い真っ赤なソースをかけた「すぱげってぃい」とひらがなで書きたくなるようなシロモノだが、これもメニューに入れた。
要はマクドナルドを真似たハンバーガーチェーンを作りながら、売るものは徹底して現地化を進めた。そしてマクドナルドはこれに勝てなかったのだ。
では日本企業はどうだろうか? 僕は日本企業は現地化できる能力は持っていると思う。日本人の几帳面さで細かなところまできっちりと対応させた現地化。こういったところは日本企業というよりも日本人が得意とするところだと思う。
問題はスピード、そして求める精度だろう。日本人は几帳面であるがゆえに、現地化しようとなると細かいところまできっちりかっちりびっちり100%に仕上げようとする。しかしそうなると時間がかかる。そうこうしているうちに他の国の企業がやってきて、日本がもたもたしている間に市場をガーッと奪っていく。中国で何度もそんな光景を目にしてきた。
海外は日本ではないのだ。日本ではない別の国にやってきて、日本並みに100%なんて求める必要はまったくない。事実、他の国の企業は100%どころか70%くらいの出来でダッシュをかけて進出していっている。しかも彼らの70%は彼らの基準での70%であって、日本人から見たら50%にも満たないかもしれない。それでも先に出た者勝ちなのだ。
日本企業に現地化はできる。しかし100%を求めていたら外国企業には絶対に勝てない。70%でさっさとスタートを切って、あとは走りながら100%に近づけていく。この割り切りができれば日本企業は世界でもっと勝てると思う。ではなぜそれができないのか? それについてはまた別の機会に書いてみる。