LTVと劣後出資比率はソーシャルレンディング、不動産クラウドファンディング投資で安全のバロメーターとして広く認知されています。
ただ、僕は数年前からそのバロメーターの有効性に疑問を持っていました。
今回はOwnersBook大阪ホテル案件を例に、LTVと劣後出資比率の落とし穴について考えます。
数字だけでは判断できません!
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LTVは担保が売却されないと無意味
まず、LTVの落とし穴についてです。
LTVが低ければ安全性が高い
LTVが低いほど安全
担保評価額に対する融資額の割合をLTV(Loan to Value)といいます。
1億円の不動産を担保に8千万円を融資する場合、LTVは80%です。
担保評価額 | 1億円 |
---|---|
融資額 | 8千万円 |
LTV | 80% |
担保が評価額通りに売れるとは限らず、評価額を下回る可能性があります。
上の例では値下げ余力は20%です。
20%ダウンまでなら融資を回収できる。
これがもしLTVが70%であれば、値下げ余力は30%。
評価額を30%下回る7千万円での売却になっても融資は回収できます。
担保評価額 | 1億円 |
---|---|
融資額 | 7千万円 |
LTV | 70% |
つまり、LTVが小さいほど値下げ余力があり安全性が高いということです。
OwnersBook大阪ホテル案件は68.2%
OwnersBook大阪ホテル案件では担保評価額11億円に対し融資額は7.5億円で、LTVは68.2%でした。
担保評価額 | 11億円 |
---|---|
融資額 | 7億5千万円 |
LTV | 68.2% |
(真偽はともかく)一般にLTV80%以下は安全と言われます。
ですので、募集時点における大阪ホテル案件は、少なくともLTVについては安全と考えられるレベルでした。
同案件をLTVを理由に選んだとしても、そのこと自体はなんら問題ないでしょう。(この下線部、覚えておいてください)
担保が売却されず低LTVが無意味に
担保が売却されず
その後、2021年3月に大阪ホテル案件は借り手が債務不履行になりました。
ところが当初、OwnersBookは担保権の実行には踏み切りませんでした。
担保権を実行し競売が行われたのは翌年になってからです。
その結果、1年以上に渡り担保は売却されず元本が回収できない事態となりました。
そして現在に至る…
低LTVが無意味に
この担保を売却しないという判断について、僕は詳細を知らないので是非は評価しません。
しかし、明らかになったのは担保が売却されない場合があるということです。
担保が売却されない限り、LTVが何%だろうと元本回収には至りません。
つまり、担保が売却されないならばLTVの低さに意味はないということです。
LTV10%でも売らなきゃ無意味…
業者に売却を強制できない
ちなみに、業者に売却を強制することはできません。
OwnersBookの匿名組合契約では次のように定められています。
本営業は、営業者の判断において行い、営業者は、本営業の遂行につき、本約款に明示的に定める場合を除き、本匿名組合員の同意を要しないものとします。
また、本匿名組合員は、本約款に明示的に定める場合を除き、本営業の遂行に一切の関与をすることはできないものとします。(匿名組合契約約款 第5条第2項)
- 営業は業者の判断で行う
- 営業の遂行に投資家の同意は必要ない
- 営業の遂行に投資家は一切関与できない
約款に同意した上で出資しているのですから、担保の売却や連帯保証の実行などを業者に要求する権利は、投資家にはありません。
これはOwnersBookに限らず不動産クラファンも含め、すべての業者について同様です。
ガッツリ決められているんだ。
LTVで安全性を判断できない
担保が売却されるならば、LTVの低さは安全につながります。
しかし、売却するかを判断するのは業者であり、投資家は口出しできません。
それゆえ、担保が売却されない可能性はすべての業者において存在します。
売らないならばLTVに意味はない。
つまり、LTVで安全性を判断できないということです。
数字で計れないんだ…
劣後出資比率の高さも安全性を保証しない
数字で計れないのはソシャレンのLTVだけではありません。
不動産クラファンの劣後出資比率も同様です。
むしろ、不動産クラファンの方が事態は深刻かもしれません。
劣後出資比率が高いほど安全
不動産クラウドファンディングでソーシャルレンディングのLTVに相当する安全指標が劣後出資比率です。
不動産クラファンでは基本的に出資総額で物件を取得します。
物件の売却価格が取得価格を下回り売却損が出た場合、損失は業者が先に被ります。
そして、売却で得られた代金があてられるのは、まず投資家分の償還です。
出資者 | 出資額 | 出資比率 |
---|---|---|
投資家(優先出資) | 2,400万円 | 80% |
業者(劣後出資) | 600万円 | 20% |
出資総額 | 3,000万円 |
よって上の例の場合、売却価格が2,400万円でも投資家は無キズです。
これがもし、劣後出資比率が30%であれば、売却価格が2,100万円まで下がっても投資家の損失はゼロ。
出資者 | 出資額 | 出資比率 |
---|---|---|
投資家(優先出資) | 2,100万円 | 70% |
業者(劣後出資) | 900万円 | 30% |
出資総額 | 3,000万円 |
劣後出資は値下げ余地と言え、ゆえに劣後出資比率が高いほど安全といわれます。
数字が大きいほど安全。
LANDNET Funding3号案件の事例
LANDNET Funding3号案件
2021年10月に募集された旧LANDNET Fundingの3号案件は劣後出資比率が30%と高めでした。
運営会社が上場企業であったこと、運用期間が3カ月と短かったこともあり、僕は100万円を投資しました。
ところが、運用終了直前で運用期間の延長が決まったのです。
売却されず
延長せずにその時点で売れる値段で売るという選択肢もあったでしょう。
値下がりが30%以内ならば投資家の元本は毀損されず、予定通りの日程で償還されたはずです。
当時の細かい事情が分からないので、その判断の是非を問うつもりはありません。
しかし、売却が行われず延長になったのは事実です。
売却されるとは限らない。
売却されなければ劣後出資比率は無意味
物件が売却されない限り、元本は戻ってきません。
劣後出資比率がどれだけ高くても、売却されなければ無意味。
LTVの低さ同様に、劣後出資比率の高さも必ずしも安全性を保証しないのです。
高いから安全とは限らない…
不動産クラファンの方がリスクは高い
利益相反が発生する
ソーシャルレンディングの場合、担保の売却は融資回収につながるため、業者、投資家双方の利益になり得ます。
ところが不動産クラウドファンディングでは取得価格割れでの売却では業者は損失です。
3,000万円で取得して2,800万円で売却だと、業者は200万円の損失になりますよね?
出資者 | 出資額 | → | 償還額 |
---|---|---|---|
投資家(優先出資) | 2,400万円 | → | 2,400万円 |
業者(劣後出資) | 600万円 | → | 400万円 |
売却すれば投資家は元本が戻ってきてハッピーだけど、業者は損してアンハッピー。
つまり、業者と投資家との間で利益相反が生じるのです。
言われてみれば確かに。
業者が損失を避けて売却しない可能性
我々が劣後30%で安心して投資した案件でも、業者が損失を避けるために売却せず延長する可能性がある。
むしろ、その可能性の方が高いと思いませんか?
運用期間を守るためにわざわざ自社で損を出すでしょうか?
僕が社長なら迷わず延長w
LTVと劣後出資比率の落とし穴
いくらLTVが低くても担保が売却されなければ元本は戻ってこない。
いくら劣後出資比率が高くても物件が売却されなければ元本は戻ってこない。
そして、売却するか否かの決定権は業者だけにある。
ゆえに「低LTV、高劣後出資比率=安全」とは限らない。
これが僕が考えるLTVと劣後出資比率の落とし穴です。
安心できません…
LTVと劣後出資比率の落とし穴への対策
LTVと劣後出資比率の落とし穴にはどのような対策が有効でしょうか?
LTVと劣後出資比率だけでは判断できない
LTVが低かろうと、劣後出資比率が高かろうと、業者が売却しなければ意味はありません。
つまり、LTVと劣後出資比率だけでは判断できないということです。
上の方で次のように書きました。
同案件をLTVを理由に選んだとしても、そのこと自体はなんら問題ないでしょう。
LTVを理由にすること自体は問題ない。
しかし「売却しない」というオプションがあると分かった以上、もはやLTV”だけ”を理由に選ぶことはできないということです。
どうすれば?
ソシャレンは借り手の返済能力の見極め
借り手は確実に返せるか?
まずソーシャルレンディングについては、担保が売却されないことを前提とせざるを得ません。
となると、担保の売却が必要になるような案件では困る。
そのような状況に至らない、すなわち、借り手が確実に返せるかの見極めが重要になります。
返済能力がない場合は?
分からない場合は見送り
借り手が返済できない可能性がある場合は、もちろん投資は見送りです。
返済能力があるか分からない、自分では判断できない場合ですが、僕は躊躇せず見送ります。
「分からないものには手を出さない」は投資の鉄則です。
不動産クラファンは取得価格以上で売却できるかの見極め
取得価格以上で売れるか?
次に不動産クラファンですが、こちらも業者に損失が出る場合には売却は行われないことを前提とすべきです。
となると、業者に損失が出ない=取得価格以上で売れるかの見極めが重要になります。
分からない場合はインカム型
こちらも取得価格以上で売れそうにない場合は、投資は見送りです。
いくらで売れるか分からない場合は、見送るか売却を前提としないインカムゲイン型の案件に限って投資すべきでしょう。
売れなくても困らないから。
精査した上での判断が求められる
以上、LTVと劣後出資比率の落とし穴について考えてきました。
売却しないという選択肢がある以上、LTVや劣後出資比率の数字だけで機械的に投資判断することはできません。
そもそも、ソーシャルレンディングの本質は貸金業、不動産クラファンの本質は不動産投資です。
貸金業で借り手チェック、不動産投資で物件チェックは当然にして行うべきこと。
借り手と物件を精査し適切に投資判断をし、大切な資産を守りましょう。
数字だけでは分かりません!
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