不動産クラウドファンディングを所管する国土交通省(以下、国交省)は投資家保護に重点を置いて施策を実行しています。
では、それらの施策は果たして実効性を発揮できているのでしょうか?
どうゆうこと?
つまり、国交省の施策によって投資家保護は実現できているのか?
そもそも、投資家保護につながる施策になっているのか?
今回は国交省の施策の有効性について、電子取引業務の許可要件から考察します。
なんか難しそうだね。
法律がらみのお話なので、ちょっとややこし系ですが。
できるだけ分かりやすく解説しますので、ぜひお付き合いください。
投資家の取るべき対策も考えます!
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国交省の施策とその有効性
それではさっそく、国交省の施策とそれが有効なのかを見ていきましょう。
電子取引業務の許可要件
国交省が許可要件を規定
不動産特定共同事業(以下、不特事業)は許可制であり、行うには国土交通大臣または都道府県知事の許可が必要です。
また、不動産クラウドファンディング(以下、不動産クラファン)を行うには電子取引業務の許可も必要とされます。
2つ必要なんだ。
それらの許可要件は国交省が規定しています。
プチ解説 不動産特定共同事業とは?
電子取引業務の許可基準
本稿で見ていく電子取引業務の許可要件は国交省サイトの不動産特定共同事業の許可の要件のページに書かれています。
許可要件には欠格事由(不動産特定共同事業法(以下、不特法)6条)と許可基準(不特法7条)があり、このうち許可基準は以下の通りです。
ちょっと長いので太字に注意しながらザッと流し読んでください。
あとで解説します。
電子取引業務(いわゆるクラウドファンディング事業)を取り扱う場合には、インターネット上で契約成立前の説明や契約の締結を行うにあたって、投資家が事業に係る重要な事項についての情報を十分に得ないまま投資の意思決定を行うことのないよう、許可を受けようとする者が、電子取引業務を適確に遂行するために必要な体制が整備されているものであることが要件とされています(法第7条第7号)。
電子取引業務の体制整備の審査では、法第31条の2第1項に規定する事項をホームページ上の見やすい箇所に表示するか、施行規則第54条に定める業務管理体制が整備されているか否か等を審査します。また、「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」を遵守できる体制が整っているか審査を行います。
電子取引業務の許可基準の目的
前半を要約して解説します。
不動産クラファン事業を取り扱う場合、契約成立前の説明や契約の締結を行うにあたり、投資家が情報を十分に得られるよう、電子取引業務の遂行に必要な体制の整備が必要
短くなったね。
内容をまとめるとこうなります。
- 契約成立前の時点で
- 投資家が情報を十分に得られるように
- 業者は体制を整備してね♥
つまり、電子取引業務の許可基準の目的は投資家保護である。
そして、それを実現する手段として業者は体制を整備するということです。
投資家保護のために体制整備。
体制整備の審査内容
続いて後半です。
電子取引業務の体制整備の審査
・法第31条の2第1項に規定する事項をサイトの見やすい箇所に表示しているか?
・施行規則第54条に定める業務管理体制が整備されているか?
・ガイドラインを遵守できる体制が整っているか?
業者が体制を整備できているかを、3項目で審査するということです。
つまり、国交省の言い分は
↓
体制が整備できている
↓
投資家が契約前に情報を十分に得られる
3項目をクリアしてたら体制バッチリなんで、投資家は情報を十分にゲットできまっせ!ということです。
3項目クリアで投資家保護実現!
3項目をクリアすれば本当にバッチリなのか?
- 不特法第31条の2第1項
- 施行規則第54条
- ガイドライン
業者がクリアしなければならない3項目を一つずつ見ていきましょう!
不特法第31条の2第1項関連
サイトへの表示が求められる項目
1つ目の審査項目は不特法31条の2第1項が定める項目を業者がサイトに表示しているかです。
具体的な項目は不動産特定共同事業法施行規則(以下、施行規則)53条に定められており、以下の通りです。
- 不動産特定共同事業者である旨
- 許可番号
- 代表者の氏名
- 事務所ごとの業務管理者の氏名
- 本店又は主たる事務所の所在地
- 電話番号
- 不動産特定共同事業の種別
うむむ…
事前の十分な情報提供は実現するか?
みなさん、どう思いますか?
確かにどの項目もサイトへの表示は必要でしょう。
でも、許可番号や代表者の氏名を見ることが、投資の是非の判断につながるでしょうか?
必要な項目ではありますが、これだけでは投資家保護は実現しません。
2つ目に期待!
施行規則第54条関連
求められる業務管理体制の整備
2つ目はクラファンを行う上で業者に求められる業務管理体制の整備です。
クラファンをやる以上は、こういう体制を整備しろよ!という内容が定められています。
どういう体制か施行規則54条はいささか漠然としており、より具体的に記した国交省の資料を要約したのがこちらです。
分かりにくくてゴメンナサイ!
- 電子情報の処理組織の管理体制
- 管理責任者の設置、セキュリティの確保、システムの円滑運用など
- システム面を安全に運用できるか?
- 適切な審査体制
- 審査の独立性の確保、事業計画の合理性の審査、審査結果の公表など
- 営業部門から独立して公正な審査を実施できるか?
- クーリングオフを適切に実施できる体制
- 定期的な情報提供を行える体制
- 財産管理報告書の発行、定期的な情報提供、不正等が発覚した際の投資家への報告
事前の十分な情報提供は実現するか?
いずれも必要な体制ではあります。
ただ、これらの体制を整備すれば投資家への情報提供が実現するわけではないです。
例えば、情報提供を行える体制を整えたとしても、提供のしかた次第では投資家には伝わりません。
以前に某社でありましたが、マイページのお知らせ欄に掲示ではログインするまで投資家は気づかないですよね?
たしかに!
これらの体制整備はもちろん必要でしょう。
しかし、これらを整備しただけでは事前の十分な情報提供は実現しないです。
ガイドライン関連
施行規則54条と同じ
ガイドラインとは国交省が作成した不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインのことです。
施行規則54条と内容は同じで、より詳しく解説しています。
主眼は体制整備
ガイドラインが主眼としているのは、施行規則54条と同じ業務管理体制の整備です。
冒頭には次のようなことが書かれています。
本ガイドラインは電子取引業務を適確に遂行するための「業務管理体制の明確化」等を行うことにより、電子取引業務の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を図ることを目的とする。
施行規則54条が必要な業務管理体制の概要を規定。
ガイドラインはそれをさらに具体的に、明確に記しています。
例えば、管理責任者を置くとか、台帳を整備するとか、報告体制、不正アクセスの検知、ウイルス防止策といった具体的な事項です。
具体策に落とし込むと。
事前の十分な情報提供は実現するか?
では、ガイドラインの項目をクリアすれば、投資家への十分な情報提供が実現するかですが。
さきほどと同じで体制整備は必要条件であり十分条件ではないです。
ガイドラインの項目をクリアしただけでは、十分な情報提供は無理でしょう。
間違ったことは書いてないんだけど…
国交省は現場での有効性を考慮していない
国交省の施策はどれも必要なことですし、間違ったことは何一つ書かれていません。
ただ、これだけでは「事前の十分な情報提供」が実現しないことは、クラファン投資家は肌感覚で分かるでしょう。
僕は国交省は施策が投資の現場で有効に機能し目的を達成できるかを考慮していないと思うのです。
その結果、国交省の狙いが現場では実現しない。
現場での投資家の動きが見えていない
国交省の狙いが実現していない例
例えば、ガイドラインには次のような内容が書かれています。
不動産クラファンでは書面の記載内容について対面で説明を行うものではないため、業者の財務状況等を適切に審査し、その結果をホームページに掲載すること等で、投資家の被害を未然に防止することが必要と考えられる。
書いていることは正しいです。
提供された情報に投資家が目を通せば、被害を未然に防止できるでしょう。
でも、現場では募集開始まで成立前書面が公開されないなんてことが起きているじゃないですか?
プチ解説 成立前書面とは?
施策の目的が現場で実現できていない
「書面を開示する体制を整えれば、投資家に情報が提供される」
それを前提にするところでストップしていて、現場では前提通りになっていないことを把握できていない。
施策が不十分と言うか、ズレていると言うか。
せっかくがんばって作ってくれた施策が、現場でその目的を実現できていないと感じます。
もったいないね…
現場での業者の動きも見えていないのでは?
国交省の狙いが実現していない例
そしてこれは推測ですが、国交省は現場での業者の動きも見えていないのではないでしょうか。
再度ガイドラインから引用します。
営業部門と審査部門の独立性を確保する必要性が高い。
営業が突っ走ってヤバイ案件を組成しないように、審査部門の独立性は確かに必要性が高いでしょう。
プチ解説 案件とは?
プチ解説 組成とは?
業者はガイドライン通りに動いているのか?
では、業者が不特事業の申請をし、国交省が許可を出すか審査した。
その時点では審査部門の独立性が確保されていたので許可を出した。
さて、業者は許可が出たあとも審査部門の独立性を確保しているでしょうか?
あっ!
もちろん、ほとんどの業者はちゃんとやっていると思いますよ。
でもどことは言いませんが、独立以前に審査そのものが形骸化しているのではと思ってしまう案件、ありませんか?
また、案件組成で必要な検査項目としてガイドラインは「対象不動産の価格と公示価格等との差異が合理的範囲か」を挙げています。
しかし、この物件でなんでこの募集額になるの?って案件、たまにですけどありますよね。
この土地でなんで10億?みたいな!
現場を知った上での施策になっていない
体制整備、ルール整備で終わっている
国交省の施策の問題点って、体制整備、ルール整備で終わっているところにあると思うのです。
整備した体制、ルールが現場でどのように運用されるのか?
体制、ルールによって、目指した目的は現場で本当に達成されるのか?
体制を整えるところで終わりで、結果は出るのか、目的は達成されるのかという視点が完全に欠けていると感じます。
結果がすべてなのに。
現場を想定した施策になっていない
官僚のみなさんはお国のために頑張ってくださっていて、僕は尊敬しているし応援もしています。
これは本心です。
ただ、机上ではなく現場で機能することを十分条件とした上で、体制整備、ルール整備をしているのか、はなはだ疑問なのです。
正直なところ、今回取り上げた国交省の施策は、消費者金融のテレビCMのあとに流れる小さな文字と変わらない。
目的実現にはつながらない体裁を整えているだけになっているのではないでしょうか?
行政にそこまで求めるのも…
しかし同時に、行政にそこまで求めるべきかという思いもあります。
ガイドラインが不十分な例
一例として、ガイドラインでは次の記載があります。
(8)顧客等による誤操作など操作ミスに対する対策
入力した注文内容を顧客等が再度確認する画面を作成するものとする。
業者のサイトで応募ボタンを押したあと、確認画面が出ますよね。
↓これのことです。
でも、確認画面を出すだけでは誤操作は防げない。
なぜなら、先着方式だと確認画面をじっくり見ていられないからです。
クリック合戦だから。
役人にそこまで求めるのも…
その結果、1口10万円の案件で100万円のつもりで100と入力したら1千万円になっていて、業者がキャンセルをくらったりする。
誤操作を本当に防ぐには、例えばB-Denみたいに確認画面で金額を数字入力させるなどの対策が必要です。
プチ解説 1口とは?
同様に「事前の十分な情報提供を実現」するためには、例えば「成立前書面は募集開始7日前までに公開」などと定めるべきでしょう。
でも、そんな細かいことまで一つ一つ国交省の役人が考えて指示するのか?
役人にそこまで求めるのも酷な話だと思うのです。
深夜残業が増えるだけ…
投資家が取るべき対応
最後にこの状況に対して我々投資家が取るべき対応を考えます。
国交省は当てにならない
決して国交省をディスるわけではないのですが。
現状では国交省が考える投資家保護は実現しないでしょう。
体制整備、ルール整備だけで、現場での有効性を考慮していない。
その結果、現場では国交省の想定通りではないことが起こっている。
現在の施策では投資家保護は期待できません。
我が身は自分で守る
国交省が目指す「契約成立前の投資家への十分な情報提供」は実現しない。
とは言え、国交省ができることに限界があるのも事実。
ではどうするか?
国交省をあてにできない以上、我が身を自分で守るしかないですよね。
自己防衛か。
情報を自分で取りに行く
具体的には今さらの基本事項になりますが、以下を徹底すべきでしょう。
- サイト、書面をよく読む
- 分からないことは調べる
- 不明な点は業者に問い合わせる(Xや掲示板ではなく)
- なんとなく分かった、きっと大丈夫で済ませない
面倒ではありますが、そもそも投資は一から百まですべて自己責任。
事前の十分な情報収集もまた然りです。
我が身は自分で守る。
自己防衛力を高めて投資の荒海で戦っていきましょう。
勝ち抜きましょう!
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