ソーシャルレンディング、不動産クラウドファンディングで投資をしていると、どうしても儲けたい気持ちが勝るものです。
時として不安を感じつつ、それでも自分にGOサインを出し、悲惨な結末に至ることも。
今回はそんな一例として2018年に起きたトラストレンディング事件を振り返り、我々投資家が学ぶべき教訓を考えます。
現在も解決していない事件です…
6月も新しいキャンペーンが始まってまいす!
タップできる目次
トラストレンディング事件とは?
まず最初にトラストレンディング事件とはどのような事件であったかを解説します。
トラストレンディングとは?
トラストレンディングはエーアイトラスト株式会社(現 AI株式会社、以下、エーアイ社)が運営するソーシャルレンディングです。
2016年に運営を開始し、公共事業関連の案件を扱う唯一の業者でした。
公共事業!
プチ解説 業者とは?
高利回り+公共事業で人気に
多くの案件で利回りは10%以上。
プチ解説 案件とは?
プチ解説 利回りとは?
しかも、扱う案件の多くは安心感のある公共事業関連のもの。
例えば、新東名案件の借り手は「国土交通省とNEXCO中日本が発注する工事」を下請けする建設会社でした。
大元が役所なら安心よね。
プチ解説 借り手とは?
さらに、エーアイ社の取締役には多くの天下り官僚が。
財務省に国交省、防衛省まで。(2018年5月当時)
役職 | 氏名 | 出身 |
---|---|---|
専務取締役 | 山田 某氏 | 財務省 |
取締役 | 川崎 某氏 | 財務省 |
取締役 | 古谷 某氏 | 財務省 |
取締役 | 山本 某氏 | 国土交通省 |
取締役 | 渡邉 某氏 | 防衛省 |
監査役 | 園田 某氏 | 財務省 |
中央官庁とのルートもある。
「高利回り+公共事業+天下り官僚」で多くの投資家の人気を博し、3千人以上の投資家が出資していました。
プチ解説 出資とは?
52億円の被害が発生
案件の多くが架空だった
しかし、それらの案件の多くは架空のものだったのです。
上述の新東名案件では借り手の建設業者が工事を受注した事実はなし。
福島原発関連の除染案件では、環境省が発注元とされる除染事業自体が存在せず。
しかしながら、高速道路事業については本借入人Aにおいて工事受注がされていないこと、除染事業については事業自体が存在しないことが検査において認められている。(2019年3月8日 関東財務局による行政処分発表)
さらに、2018年10月に取締役に就任した財務省出身の山本幸雄氏が、架空案件に絡み15.8億円を着服していた事実まで発覚したのです。
その結果、平成29年2月から同30年11月までの募集総額約52億円のうち、少なくとも約15億8千万円が、各ファンドの案件紹介等に中心的な役割を果たしていた山本幸雄取締役が実質的に支配する法人に流出していた。(2019年3月8日 関東財務局による行政処分発表)
ひどい…
52億円が延滞に
ほとんど詐欺と言ってもよい極めて悪質な内容。
2018年12月に金融庁から業務停止命令、翌年3月には第二種金融商品取引業の登録取消の行政処分が下り、トラストレンディングは事実上の休業状態に至りました。
2.このため、本日、当社に対し、下記(1)については金融商品取引法第52条第1項の規定に基づき、下記(2)については同法第51条の規定に基づき、以下の行政処分を行った。
(1)登録取消し
関東財務局長(金商)第2601号の登録を取り消す。(2019年3月8日 関東財務局による行政処分発表)
投資家の資金52億円が延滞となり、グリーンインフラレンディング事件、クラウドリース事件などに次ぐ大被害となったのです。
多くの投資家の資金はいまだに戻ってきていません。
悲惨な事件でした…
プチ解説 延滞とは?
投資家はなぜ投資したのか?
では、なぜ投資家はトラストレンディングで投資してしまったのでしょうか?
少なからずの投資家が一抹の不安
公共事業+天下り官僚の安心感
最も大きかったと考えられるのは、公共事業+天下り官僚の安心感です。
公共事業だし、国交省やNEXCOも関与しているし、さらには天下り官僚が取締役だし。
まさかどうこうなるはずがない、大丈夫と思った投資家が多かったでしょう。
多数派は大丈夫と思った。
高利回り業者への不安感
その一方で、少なからずの投資家が一抹の不安を感じていたと思います。
トラストレンディングが公共事業案件を多数出していたのは2018年です。
前年にはみんなのクレジット事件、年初にはラッキーバンク事件が起きていました。
さらに6月にグリーンインフラレンディング事件が発覚、翌7月にはmaneoマーケットに行政処分が。
高利回り業者で多発する事件。
同じく高利回りであるトラストレンディングへの不安を感じる投資家も少なくなかったでしょう。
でも、公共事業と天下り官僚だよ?
話が出来すぎじゃないか?
いや、話が出来すぎとも言えます。
公共工事だから安心って、ベタすぎますよね。
さらに、天下り官僚が公共事業を本当に引っ張ってこられるのか?
そんな大物官僚を一介のソシャレン業者が何人もスカウトできるのか?
言われてみれば…
僕自身も大丈夫だろうとは思いつつ、天下り官僚にどうしても違和感があり、トラストレンディングでは投資しませんでした。
同じように違和感を抱いた投資家は他にもいたはず。
今回の記事で考えるのは、
です。
ここからは推測です!
投資家たちの葛藤
相反する2つの気持ち
違和感を抱きつつもGOサインを出した投資家の心には、2つの気持ちがあったでしょう。
一つはトラストレンディングに抱く不安な気持ち。
もう一つは押さえきれない欲です。
心の中の2人の自分
「高利回り!儲かる!10%ゲットしたい!」
投資しようとする自分。
「どう考えてもヤバイ!やめた方が良い!」
引き止めようとする自分。
公共事業+天下り官僚に違和感を持った投資家たちは、きっと葛藤していたことでしょう。
その気持ち、人ごとじゃないな…
引き止める自分に言い訳をした
言い訳を探す投資家たち
では、なぜそれでも投資してしまったのか?
そこには自分への言い訳があったと思うのです。
投資する自分を正当化したい、引き止める自分を納得させたい。
なにか言い訳の材料はないか?
山のようにあった言い訳の材料
そして、これこそがトラストレンディング事件の特殊性でした。
言い訳の材料は山のようにあったのです。
取締役の一覧に並ぶ天下り官僚。
役職 | 氏名 | 出身 |
---|---|---|
専務取締役 | 山田 某氏 | 財務省 |
取締役 | 川崎 某氏 | 財務省 |
取締役 | 古谷 某氏 | 財務省 |
取締役 | 山本 某氏 | 国土交通省 |
取締役 | 渡邉 某氏 | 防衛省 |
監査役 | 園田 某氏 | 財務省 |
案件は公共事業に絡むものばかり。
案件説明には信頼性が高いと思わせるキーワードの数々。
今回、本借入人は元請負会社を経由して、国土交通省及びNEXCO東日本を発注者とする東京外かく環状道路関係の工事を受注しております。
本借入人が受注した新東名高速道路関係の工事は「新東名高速道路高取山トンネル西工事」と「新東名高速道路川西工事」(以下、「本件プロジェクト」といいます。)です。
放射性物質を取除く技術は、政府の基本方針に沿った内容で且つ放射性廃棄物の処分・処理に関する専門機関(原子力関連の公益財団法人)により有効性と実現性が充分に検証された方式が採用されます。
案件紹介の画像には省庁や地方自治体、大手企業などがズラリ。
財務省だし、新東名だし、清水建設だし、国交省とNEXCOだし。
ヤバくないよ!大丈夫だよ!利回り10%ゲットだよ!
自分に言い訳をした
とは言いつつ、消えない違和感。
本当に大丈夫だろうか?
損して終わりにならないか?
不安は残り、何度も葛藤した。
それでもなお、高利回りをゲットしたい欲が勝った。
違和感を抱きつつも天下り官僚だから大丈夫!と言い訳し、引き止める自分を納得させたのではないでしょうか?
欲が勝った…
悲惨な結末に
強引に納得させた自分を待っていたのは、悲惨な結末でした。
営業停止処分
2018年12月14日、金融庁はエーアイ社に対する営業停止命令と業務改善命令の行政処分を発表しました。
さらに2019年3月8日にはソーシャルレンディングを運営するのに必要な第二種金融商品取引業の登録を取り消す行政処分が下ります。
これにより、エーアイ社はトラストレンディングの運営ができない状態に至ったのです。
この度の行政処分を受け、今後、当社はソーシャルレンディングサイト「Trust Lending」における新規会員および新規ファンドの募集は行わず、既存ファンドの運用業務や資金回収のための業務に注力することとなります。(2019年3月8日 エーアイ社の発表文)
投資家にお金は返してないの?
52億円がいまだに延滞中
営業停止によりトラストレンディングは元本の償還を停止し、約52億円が延滞となりました。
延滞は現在も続いており、個人訴訟を行った一部の投資家を除き、元本は拘束されたままです。
ツライな…
プチ解説 償還とは?
トラストレンディング事件の教訓
今回紹介したトラストレンディング事件、人ごとだと思えますか?
自分への言い訳、同じようなことをしていないでしょうか?
自分に対する冷徹さが必要
不安を感じながらも欲が勝り、引き止める自分に言い訳。
欲を押さえきれなかった。
理性優先で動くことができなかった。
違和感を感じつつもGOサインを出してしまった投資家のミスは、自分に対して冷徹さを貫けなかったことにありまます。
でも、そんなもんだよね。
ヤバイを優先させよ
誰もが欲と危機センサーとの板挟みになる
そうなんです、人間なんてそんなもんなんですよ。
イケる!と思う自分、儲けたい自分。
ヤバイ!と感じる自分、働く危機センサー。
誰もが相反する2つの気持ちの板挟みになり葛藤する。
そこで、どうしても欲が勝ってしまう。
でもそこで踏みとどまってほしいのです。
優先すべきはヤバイと感じる自分
よく考えてください。
イケる!で稼げる利回りはたかだか10%、20%です。
でも、ヤバイ!で失うのは元本全額です。
トラストレンディングでイケる!に行ってしまった投資家は、1人で数十万、数百万を失った。
10%、20%のために数百万ですよ。
どう考えても割に合わないじゃないですか?
優先すべきはヤバイ!と感じる自分です。
引き止める自分に言い訳をしてはいけない。
欲を優先させていないか?
最近、高利回りの業者、案件が増えてきました。
確信を持って投資しているのなら問題ありません。
元本が全損になっても自分がバカだったで諦められます。
そうではなく、不安を感じながらも欲を優先させて投資していませんか?
もしそうであるならば、元本を失うことになったときに絶対後悔します。
なぜあのとき、踏みとどまらなかったのか。
なぜ引き止める自分に言い訳したのかと。
自分の気持ちをごまかして失敗すると必ず後悔します。
ヤバイと感じたのなら、そこで踏みとどまりましょう。
あなたが自分に言い訳した被害者の二の舞いにならない保証はありません。
明日は我が身です…
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