ソーシャルレンディングで「匿名組合契約」って単語を時々見かけますよね?
うん。見かけるけど…
実はよく分かってません~!
という方が多いのでは?
そこでこの記事では、投資初心者でも分かるように匿名組合契約を説明します。
結論から言うとこんな感じです。
- ソーシャルレンディングは貸金業です
- でも、個人が貸金業をすると法律に引っかかります
- そこで、匿名組合契約を使って法律をクリアします
- 匿名組合契約にはデメリットもあります
それではさっそく、説明スタートです。
トコトンかみくだいて、分かりやすく説明するよ!
タップできる目次
ソーシャルレンディングの本質は個人が行う貸金業
匿名組合契約とは、ソーシャルレンディングで投資をする際に、投資家とソシャレン業者との間で結ぶ契約です。
投資をする画面で、下の画像のように契約への同意を必ず求められます。
なぜ匿名組合契約が必要なのか?
それを理解するために、まずソーシャルレンディングの本質を説明します。
知っている人は飛ばしてOKです!
ソーシャルレンディングのお金の流れ
ソーシャルレンディングでは、お金が次のように流れます。
- 投資家がソシャレン業者にお金を渡す
- ソシャレン業者が集まったお金を企業に貸す
- 企業がソシャレン業者に利息を付けてお金を返す
- ソシャレン業者が投資家に分配金(利息)を付けてお金を返す
ソーシャルレンディングは貸金業
ソーシャルレンディングって何なのか?
突き詰めて言うと、こうです。
- 投資家が
- ソシャレン業者経由で
- 企業にお金を貸して
- 利息を得る
これってつまり、
投資家が貸金業をやっている!
その通り!
ソーシャルレンディングの本質は個人が行う貸金業です。
ズバッと言うと「ソシャレン=金貸し」です!
個人が貸金業を営むと貸金業法に違反する
もっとも大々的に貸金業を行っているのは銀行です。
なので、貸金業は別に悪い商売ではありません。
でも、個人がやると問題になる場合があります。
ちょっとややこしいけれど、何が問題なのか説明します!
貸金業の定義
貸金業法第2条は貸金業を次のように定義しています。
第二条 (中略)「貸金業」とは、金銭の貸付け(中略)で業として行うものをいう。(貸金業法第2条)
「業として」お金を貸すと貸金業に該当する、ってことです。
「業として」ってどういう意味?
「業として」の定義は以下の通りです。
- 反復継続して
- 社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のものである
1.反復継続して、2.事業遂行と見られる程度に、3.お金を貸すと、貸金業に該当する、ってことだね!
ソーシャルレンディングは貸金業に該当する
では、ソーシャルレンディングは貸金業に該当するのでしょうか?
まず、ソーシャルレンディングは「反復継続して」企業にお金を貸します。
2つ目の「事業の遂行とみることができる程度のものである」はどうなの?
これについては、
- その行為の主体、行為の目的等に即して具体的に判断されることが必要である
(典拠:上掲書)
そうです。
そして、金融庁はソーシャルレンディングが「事業の遂行とみることができる程度のものである」と判断しています。
条件を2つとも満たした!
したがって、ソーシャルレンディングは貸金業に該当します。
このため、ソーシャルレンディングを利用して投資家が企業にお金を貸す行為も貸金業に該当します。
投資家がソシャレンでお金を貸すと貸金業になります!
貸金業者としての登録要件
ソーシャルレンディングでお金を貸すと、投資家が貸金業をすることになりますが。
僕たち個人が貸金業をすることはできるの?
できます。
しかし、貸金業を行うには貸金業者としての登録が必要です。
貸金業法第3条で次のように定められています。
第三条 貸金業を営もうとする者は(中略)登録を受けなければならない。(貸金業法第3条)
貸金業者として登録すれば、ソーシャルレンディングで貸金業を行ってもOKです。
登録すればOKなんだ~
しか~し!
個人が貸金業者として登録するには、次の3条件すべてを満たす必要があります。
- 純資産が5千万円以上ある(貸金業法第6条第1項第14号、貸金業法施行令第3条の2)
- 貸付業務に3年以上従事したことがある(貸金業法第6条第1項第15号、貸金業法施行規則第5条の4)
- 貸金業務取扱主任者の資格を所持している(貸金業法第12条第3項)
一つでも外したらアウトだよ!
個人が貸金業者になるのは非現実的
5千万円持っていて、3年以上の実務経験があり、国家資格を持っていればOKです!
いやいやいやいや
どう考えても無理でしょw
ですよね。
普通の投資家は5千万円も持っていませんし、貸付業務の経験もありません。
僕たち個人投資家が貸金業者の登録をするのは、現実的には不可能なのです。
貸金業者としてソシャレンをするのは非現実的です!
匿名組合契約を使うことで貸金業法をクリアする
ここまでの要点を簡単にまとめます。
- ソーシャルレンディングは貸金業
- なので、投資家も貸金業者の登録が必要
- でも、ハードルが高すぎて登録はムリ
- なので、投資家が貸金業者としてソシャレンをするのは不可能
要は、貸金業法が投資家の行く手をさえぎっているのです。
そこで、貸金業法をクリアするために考えられたのが、匿名組合契約の利用です!
ここからややこしい話が続きます。できるだけ分かりやすく説明しますね!
商法第535条
匿名組合契約とは商法第535条に規定される契約の形態です。
まずは条文を読んでください。
第五百三十五条 匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。(商法第535条)
分かりません~!
だよね。笑
商法第535条をソーシャルレンディングに置き換える
分かりやすくするために、商法第535条の条文をソーシャルレンディングに置き換えます。
順を追ってていねいに説明するよ!
当事者=投資家とソシャレン業者
太字の部分を置き換えていきます。
第五百三十五条 匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
まず、当事者とは匿名組合契約を結ぶ人です。
ソーシャルレンディングでは、投資家とソシャレン業者です。
そして「当事者の一方が(中略)出資をし」ですので、
- 当事者の一方=出資する人=投資家
- 相手方=ソシャレン業者
です。
したがって、こうなります。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
匿名組合契約は投資家とソシャレン業者が結びます!
営業=営利を目的とした業務
続けて太字の部分です。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
ここでの「営業」は、営業マンとか営業トークとかの営業ではありません。
営業には他の意味があるの?
営業の本来の意味です。
条文を置き換えてみましょう。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者の「営利を目的とした業務」のために出資をし、その「営利を目的とした業務」から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
ややこしくなったね?
太字の部分は実際のソーシャルレンディングでは何のことなのか?
こういうことですよね。
- ソシャレン業者の営利を目的とした業務=案件の募集から貸し付け、回収、分配、返済までの一連の業務すべて
- その営利を目的とした業務から生ずる利益=借り手企業から受け取る利息などの利益
ここまでを踏まえて分かりやすく書き換えるとこうなります。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者が募集し執行する投資案件に出資し、その投資案件でゲットした利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
次は最後の部分だよ!
効力を生じる=契約が成立する
最後の部分です。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者が募集し執行する投資案件に出資し、その投資案件でゲットした利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
「約する」は、投資家とソシャレン業者が約束する、ですよね。
そして「効力を生ずる」は、契約として成立する、ことです。
以上より、商法第535条をソーシャルレンディングに置き換えるとこうなります。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者が募集し執行する投資案件に出資し、その投資案件でゲットした利益を投資家に分配することを、投資家とソシャレン業者が約束することによって、成立する契約である。
ようやく日本語になった。
で、どういう意味なの?
商法第535条の趣旨
ソーシャルレンディングに置き換えた場合、商法第535条の趣旨はこんな感じです。
- 匿名組合契約では
- ソシャレン業者の投資案件に
- 投資家が投資し
- その投資案件で得られた利益を
- 投資家がもらう
匿名組合契約を結んだ投資家とソシャレン業者が何をするのか?
その大枠を定義づけているのが商法第535条です。
ソシャレン業者が募集する案件に投資家が投資し利益を得る。これが匿名組合契約だよ!
匿名組合契約のポイント
さて、ソーシャルレンディングに書き換えた条文を、もう一度見てみます。
第五百三十五条 匿名組合契約は、投資家がソシャレン業者が募集し執行する投資案件に出資し、その投資案件でゲットした利益を投資家に分配することを、投資家とソシャレン業者が約束することによって、成立する契約である。
書き換えた条文のポイントは2ヶ所です。
- 投資家がソシャレン業者が募集し執行する投資案件に出資し
- 投資案件でゲットした利益を投資家に分配する
この2ヶ所の重点はこうです。
- 投資家は投資案件に出資(投資)する
- 投資家は投資で得られた利益の分配を受ける
それはつまり、こういうことです。
- 投資家は投資をしているわけで、お金を貸しているのではない
- 投資家は投資収益を得ているわけで、貸金の利息を得ているのではない
投資家は投資をしているだけ。
そのお金を使って貸金業をしているのはソシャレン業者。
したがって、
ということです。
貸金業をしているのはソシャレン業者で、投資家は投資をしているだけです!
そして、各ソシャレン業者はその条件を満たす形で業務を行っています。
匿名組合契約で貸金業法をすり抜けている
実態としてソーシャルレンディングは貸金業です。
投資家がソシャレン業者を通して企業にお金を貸し、利息で儲けます。
でも、それでは貸金業法に引っかかってしまいます。
そこで、投資家とソシャレン業者との間に匿名組合契約をかませることで、
- 投資家:投資案件に投資している
- ソシャレン業者:投資の中身としてお金を貸している
ということにしたわけです。
でも、それって屁理屈じゃない?
イエ~ス、まさに屁理屈です!
でも屁理屈でソシャレンができるようになるなら、それで良いじゃないですか。
法律なんてそんなものですよ!笑
お金を出したのが山田さんなのか田中さんなのか、借り手企業は分からない。つまり、出資者が「匿名」なので匿名組合といいます。
いわゆる「借り手企業の匿名化」とは無関係です。
匿名組合契約がソシャレンを成り立たせている
ここまでをまとめると、以下のようになります。
- ソーシャルレンディングの実態は貸金業
- でも、それだと貸金業法に引っかかる
- そこで、匿名組合契約を利用し
- 投資家は投資案件に投資しているだけで
- 貸金業をしているわけではない
- という理屈にした
投資家が貸金業者の登録をしなくてもソーシャルレンディングができるように、匿名組合契約を利用する、ということです。
ソーシャルレンディングは匿名組合契約のおかげで成り立っているよ!
匿名組合契約のデメリット
僕たち投資家は匿名組合契約を利用することで、法律に触れることなくソーシャルレンディングができます。
この点で匿名組合契約の利用は、投資家にとって大きなメリットです。
しかしその反面、次のようなデメリットもあります。
- ソシャレン業者の業務に口出しできない
- 損失が出たら分配金を得られない
- 元本が保証されない
順番に見ていきましょう。
匿名組合契約にはデメリットもあるよ!
1.ソシャレン業者の業務に口出しできない
商法第536条
商法第536条は次のように定めています。
第五百三十六条 3 匿名組合員は、営業者の業務を執行し、又は営業者を代表することができない。
4 匿名組合員は、営業者の行為について、第三者に対して権利及び義務を有しない。(商法第536条)
ソーシャルレンディングの実務ですと、
- 匿名組合員=投資家
- 営業者=ソシャレン業者
- 第三者=借り手企業
ですので、条文を書き換えるとこうなります。
第五百三十六条 3 投資家は、ソシャレン業者の業務を執行し、又はソシャレン業者を代表することができない。
4 投資家は、ソシャレン業者の行為について、借り手企業に対して権利及び義務を有しない。
ってことは、どういうこと?
つまり、商法第536条が意味するところは、
- 投資家はソシャレン業者の業務を行えない
- 投資家はソシャレン業者に代わって何かをすることはできない
- 投資家は借り手企業に直接アクションを起こすことはできない
ということです。
何もできないし、口も出せないってこと?
ザックリ言うとそういうことです。
具体例に落とし込むと、こんな感じです。
- 借り手企業が返済不能になった時に、担保を処分しろとソシャレン業者に指示できない
- 債権譲渡するのか、競売にかけるのか、ソシャレン業者の決定に異議を唱えられない
- 借り手企業に乗り込んでいって資金を回収できない
匿名組合契約書にも書かれている
匿名組合契約って案件が順調に動いているときは良いのですが。
トラブルが起こると投資家が一気に不利になってしまうのです。
でもそんなこと、ソシャレン業者のサイトに書かれてないよ?
いえ、これらは各ソシャレン業者の匿名組合契約書に明記されています。
ここでは、不動産系で人気ナンバーワンのOwnersBookの契約書で見てみましょう。(どの業者もだいたい同じ内容です。)
第5条第2項 本営業は、営業者の判断において行い、営業者は、本営業の遂行につき(中略)本匿名組合員の同意を要しないものとします。
また、本匿名組合員は(中略)本営業の遂行に一切の関与をすることはできないものとします。
本匿名組合員は、(中略)本借入人及び保証人に対して、直接本貸付契約に基づく貸付金の返済その他の請求又は連絡をしないものとします。
ソシャレン業務に関与できない、借り手に返済を請求できない。
ちゃんと書かれていますよね。
匿名組合契約では投資家は業務にタッチできません!
2.損失が出たら分配金を得られない
商法第538条
次は商法第538条です。
第五百三十八条 出資が損失によって減少したときは、その損失をてん補した後でなければ、匿名組合員は、利益の配当を請求することができない。(商法第538条)
ちょっと分かりにくいですね。例えば、
- 出資総額(=貸付総額)が3千万円だったが
- 借り手企業が返済不能になり
- 担保を処分したが2千万円しか回収できなかった場合
- 損失の1千万円を補填するまで
- 投資家は分配金を請求できない(既払い分を除く)
ってことです。
元本割れしてるんだから、分配金もへったくれもないね。
まぁ、これはしょうがないか。
3.元本が保証されない
商法第542条
最後に商法第542条です。
第五百四十二条 匿名組合契約が終了したときは、営業者は、匿名組合員にその出資の価額を返還しなければならない。ただし、出資が損失によって減少したときは、その残額を返還すれば足りる。(商法第542条)
これが強烈です!
分かりやすく書き換えましょう。
第五百四十二条 投資案件の運用が終わったら、ソシャレン業者は投資家にお金を返さないといけません。
でも、投資家から集めたお金が貸し倒れとかで減っちゃった場合は、残ってる分だけ返したらOKです♪
はい?
ごめん、意味分かんない!
例えばこういうことです。
- 投資家から3千万円を集めました
- この3千万円を借り手企業に貸しました
- ところが、借り手企業が倒産して返せなくなりました
- 担保を処分して2千万円だけ回収できました
- 投資家に2千万円を返しました
- 残りの1千万円は返さなくてOKです(テヘペロ!)
テヘペロじゃないだろ!
1千万円も返しないさいよ!
損失が出てもソシャレン業者は責任を負いません。
なぜならば上の方で説明した通り、匿名組合契約は営業者が募集する案件への「投資」だからです。
投資なのだから元本保証はできないよね…
匿名組合契約書にも書かれている
これもソシャレン各社の契約書に書かれています。
さきほどと同じOwnersBookで見てみましょう。
第8条 営業者は(中略)本借入人から(中略)元本の返済を受領した場合には、本匿名組合員に、当該受取貸付元本額に本匿名組合員出資割合を乗じて得られる金額を出資金の返還として分配するものとします。
「当該受取貸付元本額に」って書いてますよね。
貸付元本全額を返すのではなく、借り手から受け取った返済分だけを返すってことです。
ソシャレン業者の資産から取り立てることはできないの?
社長が責任取って返すべきよ!
それについてもちゃんと書かれています。
第19条 1 営業者による(中略)債務の支払は、営業者が本匿名組合契約に基づき取得又は受け入れた財産、その他本営業に関して取得し又は受け入れた財産のみを引当として、(中略)営業者の有する他の資産には一切及ばないものとし、本匿名組合員はこれを異議なく承諾し、これを撤回しないものとします。
2 本匿名組合員は、(中略)債権の回収を図るため、営業者のいかなる財産についても差押、仮差押その他の強制執行手続の開始又は保全命令の申立を行わないものとします。
借り手が返済できなくなった場合、元本は保証されません。
また、ソシャレン業者にその損失の補償を求めることはできません。
匿名組合契約はコケた時に一気にダメージが来るよ!
ソーシャルレンディングの匿名組合契約のまとめ
ソーシャルレンディングにおける匿名組合契約の意義と役割。
分かりましたでしょうか?
だいたいね。
ぼんやり半分くらいかな?
では、最後に重点だけをもう一度まとめておきます。
- ソーシャルレンディングの本質は貸金業です
- 投資家がソシャレンをするには、本来は貸金業者の登録が必要です
- でも、貸金業者の登録をするのは事実上不可能です
- これを解決するために、匿名組合契約を利用しました
- 投資家は投資をしているだけ
- 投資家は貸金業はしていない
- 貸金業をしているのはソシャレン業者
- 屁理屈だけどOK
- 匿名組合契約にはデメリットもあります
- ソシャレン業務に口出しできない
- 損失が出たら分配金は得られない
- 元本は保証されない
- 損失の補償をソシャレン業者に要求できない
以上です!
あなたのソーシャルレンディングの理解に役立てばうれしいです!
ソーシャルレンディングの始め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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