給与所得控除とは何か?
この記事を読めば、
- ソーシャルレンディングと不動産投資型クラウドファンディングで
- 所得税を計算する際の
- 給与所得控除の扱いと
- 給与所得控除を使った節税の仕方
が分かります。
給与所得控除は給与所得者だけが受けられます。
自営業者は給与所得控除を受けられないよ!
タップできる目次
給与所得控除の概要
まず最初に、給与所得控除の重点を説明します。
- 給与所得者について
- 一定の金額が
- 給与収入から引かれる
その結果、
- 課税所得が少なくなるので
- 税金が安くなる
です。
給与所得控除は名称に「所得控除」が含まれていますが、所得控除とはまったくの別物です。
何が違うのか?詳しく説明していきます。
自営業者の所得税の出し方
給与所得控除を理解するために、まず自営業者の所得税の出し方を説明します。
収入、経費、所得。この3つの関係を理解するよ!
「収入=儲け」ではない
例えば、自営業者が経営する食堂で750円の焼肉定食が売れたとします。
この750円に税金をかけられたらたまったもんじゃないですよね?
と言うのも、焼肉定食を売るためには、
- 材料費
- 光熱費
- 食堂の家賃
- 従業員の人件費
その他もろもろの「経費」がかかっているからです。
750円はあくまでも「収入」であって、そこから経費を引いた「所得(儲け)」に税金をかけてくれ!って話ですよね。
かかったコストにまで税金かけられたら、お店がつぶれちゃうよ!
所得の出し方
ですので、自営業者の場合は、
- 収入ー経費=所得
と計算し、この所得に税金をかけます。
かかった経費を引く。
これが自営業者の所得税を出す上での大切なポイントです。
経費を引いたあとの純粋な儲けに税金をかけるってことか。
給与所得控除の位置付け
では、会社員やパートタイマーのような給与所得者の所得税はどうやって出すのでしょう?
さきほどの自営業者の場合をベースに考えます。
ここで給与所得控除が出るよ!
給与所得者も経費がかかっている
会社員の山中さんが給料を30万円もらったとします。
でも、この30万円にまるまる税金をかけられると、山中さん的にはちょっと納得がいきません。
と言うのも、山中さんが30万円の給料をもらうためには、
- 会社に来ていく服
- 靴やカバン
- 化粧品(すっぴんで会社に行けない!)
- 仕事の知識を得るための本
などなど、会社員をしなければ使わなくて済んだお金がかかっているからです。
つまり、自営業者だけでなく給与所得者も経費はかかっているのです。
そうよ。すっごくお金かかってるんだから!
給与所得控除は給与所得者の経費
自営業者が収入から経費を引けるのであれば、給与所得者も収入から経費を引けなければ不公平です。
そこで、給与所得者の収入から経費として差し引くのが給与所得控除です。
自営業者が次のようにして所得を出すのと同じように、
- 収入ー経費=所得
給与所得者は次のようにして所得を出します。
- 収入ー給与所得控除=所得
つまり、給与所得控除の位置付けは給与所得者の経費です。
自営業者が経費を引く代わりに、給与所得者は給与所得控除を引くってことか。
給与所得控除と所得控除の違い
ここまでで分かることは、給与所得控除と所得控除はまったく別物だということです。
この2つの名前は似ていますが、内容はまったく違います。
その違いを正しく理解しましょう。
給与所得控除と所得控除の違いを説明するよ!
同じ所得ならば同じ税金で良いのか?
さきほど説明したように所得税を出すには、まず収入から経費や給与所得控除を引いて「所得(儲け)」を出します。
そして、その所得に対して税金をかけます。
さて、山中さんと村上さんの所得が同じ190万円だとします。
もしこの2人が次のような事情だとすると、
- 山中さん
- 共働き夫婦
- 子供なし
- 村上さん
- シングルマザー
- 子供3人
- その内の1人に障害がある
2人とも190万円に同じように税金をかけられてしまうと、村上さんはちょっとキツイですよね?
シングルマザーで3人の子持ちが共働きの子供なしと同じ税金を払うって、確かに大変だよね。
税負担の公平性
税金には税負担の公平性という考え方があります。
これは同じ金額の税金を負担するという意味ではなく、税金を負担できる能力に応じて負担するという意味での公平性です。
山中さんに比べて村上さんは明らかに税負担能力が低いです。
そこで、村上さんの所得から例えば70万円を引きます。
仮に2人の所得税率が5%だとすると、支払う税金は、
- 山中さん:190万円×5%=9万5千円
- 村上さん:(190万円ー70万円)×5%=6万円
となり、村上さんの税負担が軽減されます。
税金がかかる所得を減らすことで、支払う税金を減らしてあげるってことか。
所得控除
このように、所得を減らすことで税負担を軽くする仕組みが所得控除です。
税金を出す際には、収入から経費or給与所得控除を引いて所得を出し、そこから所得控除を引いて、税金がかかる基準となる課税所得を出します。
- 収入ー経費or給与所得控除=所得
- 所得ー所得控除=課税所得
- 課税所得×税率=税金
その際に、納税者それぞれの事情に応じて所得控除の額を増減することで課税所得を調整し、それぞれの税負担能力に応じた税金にする、ということです。
経済的負担が大きい人(子供が多いetc)や稼ぐ力が弱い人(障害者etc)は所得控除を多くしてあげて、負担や経済力に応じた税額にするわけか。
給与所得控除と所得控除の違い
以上を踏まえると、給与所得控除と所得控除が違うことが分かると思います。
まず引き算をする場所が違います。
そしてそれ以上に違うのは両者の役割です。
- 給与所得控除:所得を出すための計算の一部
- 所得控除:負担能力に応じた税額にするための調整措置
給与所得控除は自営業者の経費の代わりに給与所得者の収入から引き算する、単なる計算過程の一部です。
これに対して所得控除は、税負担能力が低い人の税負担を軽減することで税負担の公平性を実現するという、重要な役割を持っています。
名前が似ているだけで、本質的にまったくの別物であることを知っておきましょう。
所得控除って本質的には節税ツールじゃないんだね。
給与所得控除の控除額の出し方
給与収入から引き算する給与所得控除。
その控除額の出し方を見ていきます。
表を見るだけだから簡単だよ!
給与所得控除の控除額
会社員やパートタイマー一人ひとりについて、経費を算出して事務処理をするのは非現実的です。
そこで、給与所得控除の控除額は、給与収入の額に応じて下表のように一律で決められています。(所法第28条)
給与収入 | 給与所得控除額 |
---|---|
162万5千円以下 | 65万円 |
162万5千円超 ~ 180万円以下 | 給与収入×40% |
180万円超 ~ 360万円以下 | 給与収入×30%+18万円 |
360万円超 ~ 660万円以下 | 給与収入×20%+54万円 |
660万円超 ~ 1,000万円以下 | 給与収入×10%+120万円 |
1,000万円超 | 一律220万円 |
例えば、給与収入が300万円の場合、給与所得控除は、
- 300万円×30%+18万円=108万円
です。
そして、給与収入300万円から給与所得控除108万円を引いた192万円に税金がかかることになります。(所得控除を無視した場合)
「給与収入ー給与所得控除=給与所得」で、この所得に税金がかかるんだったよね。
給与収入
なお、「給与収入」とは以下の「給与収入に含まれるもの」から「給与収入に含まれないもの」を引いたものです。
- 給与収入に含まれるもの
- 給与
- 賞与
- 残業手当
- 休日出勤手当
- 職務手当
- 地域手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 宿直料、日直料
- 食事、商品などの現物支給(相当額)
- 給与収入に含まれないもの
- 出張手当(出張にかかる旅費、宿泊費)
- 転勤手当(転勤に伴う転居にかかる旅費)
- 通勤手当(以下の上限額が有り)
- 自動車等のみを使う場合:距離に応じて月額上限31,600円
- 上記以外の場合:月額上限15万円
- 駐在手当
- 宿直料、日直料の内、法令で定めるもの
- 現物支給の内、制服や作業服など職務上必要なもの
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、次のように考えて下さい。
基本的に会社からもらったお金は収入ですので税金がかかります。残業手当や家族手当も収入であり、儲けの性格が強いです。
これに対し、出張手当や通勤手当は会社からもらったお金ではありますが、収入というよりはホテル代とか電車代とか経費の性格が強いですよね?
もらった給料30万円の内、出張のホテル代1万円と通勤の定期代3万円にまで税金をかけられたらたまったもんじゃない。
なので、30万円から1万円と3万円を引いた26万円を税金の対象となる給与収入としましょう、ということです。
税金や法律ってけっこうしっかり考えてくれてるんだね。意外や意外。
2020年分から変わる
なお、給与所得控除の控除額は2020年分から次のように変わります。
給与収入 | 給与所得控除額 |
---|---|
162万5千円以下 | 55万円 |
162万5千円超 ~ 180万円以下 | 給与収入×40%ー10万円 |
180万円超 ~ 360万円以下 | 給与収入×30%+8万円 |
360万円超 ~ 660万円以下 | 給与収入×20%+44万円 |
660万円超 ~ 850万円以下 | 給与収入×10%+110万円 |
850万円超 | 一律195万円 |
例えば、給与収入が300万円の場合、給与所得控除は、
- 300万円×30%+8万円=98万円
です。
今よりも10万円減っちゃうのね。
でも、よほどの高給取りじゃない限り、2020年から基礎控除が10万円アップするので、それでプラマイゼロになるよ!
給与所得の出し方
給与所得控除を出したら、次は給与所得を出します。
これがけっこう複雑です。
ちょっとややこしい計算になるよ!
給与所得の出し方の原則
ここまで説明してきた通り、原則としては、
- 給与収入ー給与所得控除=給与所得
です。
例えば、給与収入が500万円の場合、さきほどの表に当てはめて計算すると、給与所得控除は154万円です。
したがって、
- 給与所得=500万円ー154万円=346万円
となり、この346万円から所得控除を引いたものに税金がかかります。
表に当てはめて控除額を出して引き算するだけだから簡単だね。
給与所得の実際の出し方
ただし、所得税法では「給与収入が660万円未満の場合の給与所得は、所得税法別表第五という一覧表に照らし合わせて出す」と定められています。(所法第28条)
この一覧表を計算式に置き換えると次のようになります。
給与収入 | 給与所得 |
---|---|
65万1千円未満 | 0円 |
65万1千円以上 ~ 161万9千円未満 | 給与収入ー65万円 |
161万9千円以上 ~ 162万0千円未満 | 96万9千円 |
162万0千円以上 ~ 162万2千円未満 | 97万円 |
162万2千円以上 ~ 162万4千円未満 | 97万2千円 |
162万4千円以上 ~ 162万8千円未満 | 97万4千円 |
162万8千円以上 ~ 180万円未満 | (給与収入÷4,000円を端数切り捨て) ×4,000円×60% |
180万円以上 ~ 360万円未満 | (給与収入÷4,000円を端数切り捨て) ×4,000円×70%ー18万円 |
360万円以上 ~ 660万円未満 | (給与収入÷4,000円を端数切り捨て) ×4,000円×80%ー54万円 |
660万円以上 ~ 1,000万円未満 | 給与収入×90%ー120万円 |
1,000万円以上 | 給与収入ー220万円 |
例えば、給与収入が100万円の場合、給与所得は100万円ー65万円=35万円です。
また、給与収入が162万5,325円の場合は、給与所得は97万4千円です。
分かりにくいのがその下からの「給与収入÷4,000円を端数切り捨て」です。
例えば、給与収入が365万4,321円の場合、次のようになります。
- 給与収入=365万4,321円
- 給与収入÷4,000円=913.58025
- 端数切り捨て → 913
- 給与所得=913×4,000円×80%ー54万円=238万1,600円
ということで、給与所得は238万1,600円となります。
端数を切り捨ててもう一回計算ってのが面倒くさい~!
給与所得控除の特定支出控除
給与所得控除には「特定支出控除」という特例があります。
特定支出控除を説明するよ!
特定支出控除とは?
給与所得者が業務に関する費用を自腹で払った場合、一定の金額を所得から引くことができます。
その結果、課税所得が減るので所得税と住民税が安くなります。
これが特定支出控除です。
特定支出控除の対象となる支出
特定支出控除の対象となるのは、以下に当てはまる支出です。
- 勤務や職務等において必要と認められるもので
- 勤務先から補填を受けずに自腹で支払っている
- 以下の支出
- 通勤費
- 転居費(転勤によるもの)
- 研修費(研修を受ける費用)
- 資格取得費(弁護士、税理士などを含む)
- 帰宅旅費(単身赴任者のもの)
- 以下の勤務必要経費(合計で最大65万円まで)
- 図書費
- 衣服費(制服など)
- 交際費等
注意点は以下の通りです。(所令第167条の3)
- 転居費には引っ越し代や交通費の他、移動に伴う一時的な宿泊費も含まれます。
- 帰宅旅費が認められるのは1ヶ月に4往復分までです。
- 図書費には書籍、雑誌の他、新聞なども含まれます。
特定支出控除の控除額
特定支出控除の控除額は次のように決められています。(所法第57条の2)
- 特定支出額ー給与所得控除額の半額
つまり、特定支出の合計が給与所得控除の半額を超えたら、特定支出控除を受けられるということです。
給与所得控除が100万円だったら、50万円を超えればOKってことか。
給与所得控除の半分を超えれば控除適用
具体的に見てみましょう。
例えば、給与収入が300万円の場合、給与所得控除は108万円です。
- 300万円×30%+18万円=108万円
その半分ですから54万円を超えれば控除を受けられます。
例えば、特定支出が合計64万円の場合、特定支出控除額は64万円ー54万円=10万円です。
給与収入から給与所得控除にプラスして特定支出控除10万円を引けるので、
- 300万円ー108万円-10万円=182万円
となり、課税対象となる給与所得がさらに少なくなります。
10万円にかかる税金が減るから、さらにお得になった!
特定支出控除はイマイチ
しかし、特定支出は自腹で払った支出です。
通勤手当が会社から出るでしょうし、転勤や研修、接待の費用も普通は会社が出しますよね。
それ以外の図書費や衣服費で年間54万円、月々4万5千円も自腹で払うものがあるでしょうか?
普通の会社員で特定支出控除を使えるケースはあまりないと思います。
給与所得控除って最低でも65万円だから、最低でもその半分の32万5千円を超えないと特定支出控除は使えない。そんなに自腹で使わないからハードルが高すぎるよね。
給与所得控除を受けるための手続き
給与所得控除を受けるにはどのような手続きや提出書類が必要かを説明します。
基本的には何もしなくてOKだよ!
給与所得者の場合
会社員やパートタイマーなどの給与所得者の場合、給与所得を出す際に給与所得控除が引かれています。
ですので、手続きなどを行う必要はありません。
特定支出控除は確定申告が必要
ただし、特定支出控除を受ける場合は確定申告が必要です。
また、その際に以下の書類を提出する必要があります。
- 特定支出に関する明細書
- 通勤経路や書籍の内容、接待相手の氏名などを含む
- 特定支出が業務等で必要であることを証明する勤務先が発行した書類
- 特定支出に関する領収書など
- 領収者、金額が示されるもの
会社に説明して一つ一つの支出に証明書を書いてもらうってこと?手続きのハードルも高すぎだよ。
非給与所得者の場合
給与所得控除を受けられるのは給与所得者だけです。
ですので、自営業者やフリーランサーなどの非給与所得者は、給与所得控除を受けることはできません。
非給与所得者は給与所得控除の代わりに必要経費を申告できるよ。
ソーシャルレンディングと給与所得控除
ソーシャルレンディングや不動産投資型クラウドファンディングの税金対策に給与所得控除を使えるか説明します。
結論から言うと使えません!
給与所得控除は使い果たしている
まず、ほとんどの場合で給与所得控除額は給与収入よりも少ないです。
なので「給与収入ー給与所得控除」のところで控除額をすべて使い果たしています。
このため、給与所得控除の余った分でソーシャルレンディングの利益を減らすことはできません。
給与収入以外からは引けない
給与所得控除の最低額は65万円ですので、給与収入が65万円未満であれば、引ききれない控除額の余りが出ます。
しかし、そもそも給与所得控除を引くことができるのは給与収入からだけです。
ですので、例えば次のようなケースで、
- 給与収入:50万円
- 給与所得控除:65万円
- ソーシャルレンディングの収益:20万円
引ききれずに残った15万円を20万円から引いてソシャレンの収益を5万円に減らし、ソシャレン収益にかかる税金を減らすということはできません。
ソシャレンや不動産クラファンの所得は雑所得なので、給与所得控除で引くことはできないよ!
給与所得控除のまとめ
最後に給与所得控除の要点をまとめます。
- 給与所得控除を受けると
- 給与収入が減り
- 支払う税金が減ります
- 給与所得控除は給与所得者の経費です
- 給与所得者だけが受けられます
- 給与収入ー給与所得控除=給与所得
- 給与所得に税金がかかる
- 給与所得控除と所得控除は違います
- 給与所得控除:給与所得を出す計算の一部
- 所得控除:税負担を公平化する装置
- 給与所得控除の控除額は給与収入で決まります
- 最低65万円、最高220万円
- 2020年に控除額変更
- 給与所得控除には特定支出控除があります
- 自腹で払った費用の一部を控除できます
- ハードルが高すぎて使えません
- 給与所得控除を受けるための手続きは
- 給与所得者:原則不要
- 非給与所得者:控除を受けられない
- 特定支出控除:確定申告
給与所得控除の額によって給与所得が決まります。
所得の総額によっては税金が高くなったり、世帯主の扶養から外れるケースがあります。
給与所得控除を受ける手続きは不要なので放ったらかしで済むのですが、自分の給与所得控除の金額くらいは把握しておきましょう。
子供がバイトでけっこう稼いでいる場合は、子供の収入と控除額もチェックしようね!
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