普通の航空会社に比べて数万円単位で安い春秋航空。普通の航空会社とは違うことをすることでチケット代を安くしています。LCC(格安航空会社)としてどのような努力と工夫を重ねて安さを実現させているのか紹介します。
コストがかかるとチケット代を安くできません。コストを下げてはじめてチケット代も安くできます。安く売るためにはコストダウンが必須です。春秋航空は普通の航空会社が行わない数々の方法でコストダウンを実現させています。
普通の航空会社は自社サイトの他にJTBなどの旅行会社を通じてもチケットを販売します。しかし、旅行会社はボランティア団体ではありませんのでチケット販売をタダでしてくれるわけではありません。旅行会社に販売してもらうと販売代行手数料を支払わなければなりません。
そこで春秋航空では2000年代初頭から自社サイトでチケット予約ができるようにし、モバイルサイトやアプリも積極的に展開してきました。さらに、737円セールや9元セールなどの割引プロモーションは自社サイトでしか予約できないようにしたり、自社サイトで機内食を予約すると搭乗当日に機内で買うよりも安くするなど、あらゆる手を使って自社サイトで購入するように誘導してきました。
そして現在では自社サイトでの販売比率は70%にまで達しています。また、残りの30%は旅行会社などを通しての販売ですが、その大半が親会社の上海春秋国際旅行社が販売しているため、他社に販売代行してもらうよりも代行手数料を安くできています。
これらの努力の結果、1座席1kmあたりの営業コストは中国の業界平均が0.0328元なのに対し春秋航空は0.0098元と、普通の航空会社の3分の1という低コストを実現させています。
チケットの販売を自社サイトで行う、つまり機械に販売させることで、販売にかかる人件費を下げることができています。そして、人件費が発生するコールセンターとチェックインカウンターでの予約では予約手数料を取り、自社サイトでのインターネット予約だけは予約手数料を無料とすることで利用者をネット予約に誘導し、販売コストのさらなる削減に取り組んでいます。
また、春秋航空以外の中国の航空会社は政府機関である中国民航局の予約システムを利用していますが、これにはもちろん利用料がかかります。春秋航空は中国の航空会社で唯一、予約システムを自社開発し民航局の予約システムを利用していないため、予約システムの利用料を払わないで済ませています。
この他にも管理業務や空港業務のアウトソーシング化や、経費予算の厳格な管理などを徹底し、1座席1kmあたりの管理コストは中国の業界平均0.0162元に対して春秋航空は0.0081元と、普通の航空会社に比べてコストを半減させています。
航空機の購入費用は航空会社にとって非常に大きなコストです。1機1機の機材を少しでも安く買うことで経営コストをダウンし、その分チケットを安くすることができます。その一環として春秋航空が行っているのが機材の単一化です。
日本航空や全日空など普通の航空会社は路線の需要や航続距離に合わせて、ボーイング777やエアバスA380のような大型機から、ボーイング737やエアバスA320、さらにはエンブラエル170といった小型機まで数多くの機種を運用しています。これに対して春秋航空では中国法人はエアバスA320-320型機、日本法人はボーイング737-800型機のそれぞれ1機種に絞りこみ、ジェットエンジンを選択できるA320ではボーイング737-800型機のジェットエンジンCFM56-7Bと同系列のCFM56-5Bを採用しています。
機材やエンジンを一つに絞ることでメーカーに対して価格交渉で優位性を持つことができ、それが機材調達コストの低下につながります。また、機材を単一にすることで整備費が下がりますし、部品の在庫高を抑えることができます。さらにパイロットは機材ごとにライセンスを持っているので、機材を一つに絞ると雇用するパイロットはすべてその機材を操縦できるパイロットとなり、乗員運用の効率化にもつながります。
その他にも細かいコスト削減を行っています。まずはLCCではすっかりお馴染みとなったレシートのような薄い搭乗券です。普通の航空会社の厚紙タイプよりも安いですし、感熱式の印字ですのでインクも必要ありません。
拠点空港には自動チェックイン機を多数揃え、チェックインカウンターで対応する人員を削減しています。中国では身分証明証にICチップが組み込まれていて、インターネットで航空券を予約すると身分証明証を使って自動チェックイン機で搭乗手続きができるので乗客にとっても非常に便利です。
そのチェックインカウンターも上海浦東空港では国内線は第2ターミナルの左端、国際線は右端、搭乗ゲートも保安検査場から最も遠い場所、つまり不便な代わりに使用料が安いものを使っています。また、よく知られている通り沖止めした機材までバスで移動することでボーディングブリッジの使用料を節約しています。
また、到着地が近付くと客室乗務員が機内のゴミなどを集めて回りますが、これは機内の清掃を外注するコストを削減するためです。さらに、自社でパイロットを養成するとコストがかかるため、他社で勤務中の現役のパイロットを引き抜くことで養成費がかからないようにしています。
春秋航空を含むLCC(格安航空会社)では機内食や飲み物、受託手荷物の預け入れなどはすべて有料です。こう聞くと「普通の航空会社は無料なのに」と感じる日本人が多いのですが、実はその感じ方がそもそも大間違いです。普通の航空会社の機内食などは無料ではありません。有料です。
機内食は日本航空や全日空などが自社で作っているのではありません。機内食を製造するケータリング会社に外注しています。では、ケータリング会社へ支払う機内食の代金はどこから出すのでしょうか?会社の利益を削って払ってますなんていうと、株主から袋叩きにあいます。ケータリング会社へ支払う代金はどこから出ているのか、言うまでもありません、機内食を食べる乗客の財布から出ています。つまり、チケット代に機内食代が含まれているということです。
機内食だけではありません。ビールやコーヒーなどの飲み物、膝にかけるブランケット、長距離路線でのアメニティグッズ、映画やゲームなどのエンタテイメントサービス、すべてチケット代に含まれています。決して無料なのではありません。おもいっきり有料です。みなさんが無料だとよろこんで食べている機内食は、チケットを買うときにしっかり代金を払っている有料の食事です。無料だとよろこぶのではなく、お金を払ってこの程度の味かと不満に感じても良いくらいなのです。このことをまずしっかり認識してください。
ここまで読めば普通の航空会社のチケットがなぜ高いのかお分かりでしょう。LCCよりも営業コストなどがかかっていることもありますが、チケット代に機内食などの代金が含まれていることもチケットが高くなる理由の一つです。逆に言うと、チケットに機内食代などを含めなければもっと安くチケットを販売できるということです。そしてそれを実現しているのが春秋航空です。
春秋航空では機内食や飲み物など、普通の航空会社で無料(と言いつつ実は有料)で提供されているサービスをすべてカットしています。それらの代金をチケットに含めないことで、チケット代を安くしているのです。そうすることで、「わざわざ高いお金を払うくらいだったら機内食はいらない」「機内食がなくても安いほうが良い」という利用者のニーズに応えているのです。
会社が儲かることは悪いことだみたいに日本ではとらえられがちですが、会社が収益を上げることは実は利用者にとって非常に重要なことです。なぜならば、収益が上がらなければ料金を安くしたりサービスの質を上げることができないからです。春秋航空は収益性を上げるために次のような工夫をしています。
1回のフライトに100万円かかる飛行機があるとします。この飛行機に100人の乗客が搭乗すれば1人当たりの運賃は1万円で済みます。ところが50人しか乗らなければ1人当たりの運賃は2万円になります。つまり、飛行機が満席に近づくほど航空会社が乗客に請求しなければならない運賃は安くなるのです。搭乗率を上げれば上げるほど、運賃を安くできるということです。
その点で困るのがキャンセルです。特に直前にキャンセルされるとその座席が空席のまま売れ残ってしまい、搭乗率が下がります。その状態が毎回続くと航空会社は耐え切れなくなって運賃を上げざるを得なくなります。田舎の鉄道やバスが過疎化で乗客が減って運賃を値上げするのと同じです。
そこで春秋航空などのLCC(格安航空会社)ではキャンセル料を高くして予約した乗客がキャンセルをしにくくしています。キャンセル料で儲けようとしているのではなく、キャンセルを減らして搭乗率を上げることで安い運賃を実現しようとしているのです。
座席数を増やすほど運賃は下がります。先ほどの例で言うと、機内に座席が50席しかなければ満席でも乗客に2万円ずつ請求しなければなりません。ですが100席あれば請求する運賃は1万円で済みます。
春秋航空日本が使用していボーイング737-800型機は日本航空と全日空も使用しています。日本航空、全日空は前後の座席の間隔(シートピッチ)をゆったりと31インチ(79cm)取り、機内の前から後ろまで29列の座席を配置しています。これに対して春秋航空はシートピッチを29インチ(74cm)に縮めることで座席を32列にしています。これによって同じボーイング737-800型機で日本航空や全日空よりも座席を15%増やし、1人の乗客に請求する運賃を下げています。
春秋航空(中国)も同様です。同社が使用するエアバスA320-200型機は全日空も使用していますが、下表の通り春秋航空(中国)のほうが座席数が8%多くなっています。
機材には購入費もかかりますし、整備費や駐機場の費用もかかります。これらのコストは当然チケット代に含まれています。仮に1つの機材にかかる1日のコストが200万円で座席が100席あるとします。もしこの飛行機が1日に1回しか飛ばなければ輸送できる乗客は100人だけですので、1人あたり2万円請求しなければなりません。これが1日に2回飛べば請求額は半分の1万円、4回飛べば5,000円で済みます。飛べば飛ぶほど運賃は安くなる。機材運用の効率化は安いチケットの実現に極めて重要なのです。
そこで春秋航空日本は航空機が到着してから次の空港に向けて出発するまでの時間を45分に、春秋航空(中国)では最短で30分にしています。地上で停まっている時間を減らして少しでも多く飛ばそうということです。乗り遅れそうな乗客を待たずに定時出発するのも同じ理由からです。普通の航空会社はそういった乗客が出ることも想定して余裕を持ったスケジュールを組みます。ですがそうすると機材運用の効率が落ちて運賃がアップしてしまいます。そうなることを避けるためにLCCは乗り遅れそうな乗客を待たないのです。
また、春秋航空をはじめとするLCCは基本的に予備機を持ちません。例えば、広島から東京羽田に到着して折り返してまた広島に飛ぶ飛行機があるとします。仮に広島からのフライトが1時間遅れると、折り返しの広島行きも1時間遅れてしまいます。普通の航空会社はこういった事態に備えて拠点の空港に予備の飛行機を待機させておき、折り返しの広島行きはその予備の飛行機を使って定刻通りに出発させます。これが予備機です。大手航空会社は予備機を持つことで遅れや欠航を防ぎます。
しかし予備機は新たな乗客=収益を生み出しません。コストがかかるだけで収益を生み出しません。そしてそのコストは予備機以外の飛んでいる飛行機で補うしかありません。それはつまり、予備機のコストは飛んでいる飛行機に乗っている乗客が負担しているということです。予備機があるおかげで遅れが解消できると喜んでいる場合ではないのです。その分のコストはしっかりチケット代に含まれているのです。
予備機は収益を生み出さない上、予備機以外の機材に乗る乗客のチケット代をアップさせます。そのためLCCは原則として予備機を持たないのです。もちろんその代わり一度遅れが出ると予備機でその遅れを回復するという手が使えませんので、その日の運行がすべて終わるまで遅れは延々と続きます。ですがその代わり安いです。遅れを解消できない代わりに安い。それがLCCです。
普通の航空会社では無料の座席指定もLCCでは有料です。こういったところで収益を上げれば上げるほどチケット代を安くしやすくなります。ドラッグストアが薬や化粧品で利益を稼いで、その利益で集客用に洗剤やティッシュペーパーを安売りするのと同じです。