春秋航空のようなLCC(格安航空会社)はチケットが安いから事故が起こりやすいといまだに思っている人が少なくありません。実際はどうなのか、春秋航空の安全性について説明します。
「安全面を犠牲にして安さを実現させている」という認識は間違いです。日本では「安かろう悪かろう」という考え方が強く、安い=品質が低い、リスクがあると考えがちです。確かにそういった商品やサービスがあることは事実です。ですが格安航空会社というのはそういう手段で安さを実現するビジネスモデルではありません。機内食をなくしたり機材の稼働率を上げるなどの工夫でコストダウンと収益率を向上させて運賃を下げています。(参考:チケットの安さの理由)
また、安全を犠牲にするという選択肢を採ることは格安航空会社には不可能です。というのも、格安航空会社はコストカットを徹底しているため余分な資金がありません。また、国営企業でもありませんから経営危機に陥ったからといって日本航空のように国が助けてくれることもありません。墜落事故が一度起こったら格安航空会社は倒産すると言われているほどです。そういう格安航空会社だからこそ安全性に敏感にならざるをえないという一面もあるのです。
コストダウンで安さを実現させているわけであって、安全を犠牲にして安くしているのではない。この点はよく理解してください。
整備を手抜きしてコストダウンしているという指摘も誤りです。そもそも航空機をどのように整備するかを航空会社が勝手に決めることはできません。例えば日本の場合、航空会社が整備規定を定めたり変更する際は国土交通大臣の認可を受けなければならないと航空法第104条第1項で定められていますし、整備の実施方法や整備者の訓練方法など整備規定の内容も航空法施行規則第214条で決められています。さらに整備を適正に行っているか国土交通省が抜き打ち検査を行うことも航空法第134条第2項で定められています。
要するに法律でガッチリ固められているので、春秋航空が好き勝手やって整備コストを削減するなんてできないということです。
また、格安航空会社はコストをかけないために大規模の整備施設は所有せず、大手航空会社に整備を委託するのが普通です。春秋航空日本の場合も始発便最終便の点検はすべて自社でやっていますが、それ以外の整備は自社でやる以外にも東京成田空港では日本航空と全日空、高松航空と広島空港では日本航空、佐賀空港では全日空にも委託しています。機体以外でもエンジンはGE Engine Service(ジェットエンジン大手ジェネラルエレクトリック社のエンジンサービス小会社)に、非常設備はJALエアテック(日本航空子会社)に整備を委託しています。自社だけで適当にやっているわけではないのです。
中古のオンボロ飛行機を使っているので格安航空会社は安いというのも大きな誤解です。確かに会社を立ち上げたばかりの時期は資金負担を考えて中古の機材を使うこともあります。ですが、1つ1つの機材を高頻度で運行させることを前提とするLCCには機材導入のコストダウンよりも毎日の機材運行のコストダウンのほうが効果は大きいです。このため、経営がある程度安定してきたら燃費や操縦性が良い最新の機種に置き換えていくのが普通です。
例えば春秋航空(中国)はエアバスA320-200型機を運用していますが、確かに初号機(製造番号1372)はエジプトのロータスエアから購入した中古機です。また、2・3号機(同879、1286)、7~10号機(同1686、978、1852、1769)及び13号機(同1920)の合計7機も中古機です。ですが2011年1月からこれら中古機の他社への売却を開始し、2015年5月の7号機売却をもって初号機を含めた中古機8機すべての他社への売却を完了しています。ですので現在春秋航空(中国)には中古機は1機もありません。春秋航空日本に至っては最初から保有3機すべて新造機です。
さらに機材の新しさについて言えば、春秋航空(中国)で現在運用されている機材の中で最も古いのは2006年11月に受領されたエアバスA320-200型機(製造番号2939)です。春秋航空日本は2013年7月のボーイング737-800型機(同39429/4413)です。これに対して日本航空で最も古い機材は1994年8月登録のボーイング767-300型機(同27312/548)、全日空はさらに古く1987年6月登録のボーイング767-300型機(同23756/176)です。春秋航空(中国)よりも10~20年、春秋航空日本よりも20~25年古い機材を使っています。
もちろん機材が古い=安全性が低いではありません。ですがこれらの事実から、春秋航空が古いポンコツ機材を安く買って運行しているのではないということは分かると思います。
春秋航空(中国)で過去に事故が1件だけ起きています。事故を起こしたのは江蘇省淮安発福建省アモイ行き春秋航空(中国)9C8945便(エアバスA320-200型機)です。2014年6月6日17時22分に淮安を出発した同機は順調に飛行を続け、19時2分にアモイ高崎空港に着陸を試みました。しかし上空50フィートまで降下した時点で激しい雨と強風のため進行方向が滑走路に対して3~5度右に傾いた状態で着陸する事態となりました。
そして滑走路に主脚(機体中央のタイヤ)が接地した時点で左の主脚は滑走路内に接地しましたが、右の主脚が接地したのはショルダー(滑走路左右の路肩の部分)で、着陸帯(滑走路周囲の芝生の部分)までは4.4mでした。1秒後に右主脚が着陸帯に突入。この時点で前輪はまだ接地しておらず減速用の逆噴射もまだ行っていなかったため機長は再離陸することを決め、接地7秒後にエンジンを再加速、14秒後に再離陸しました。その後、上空を旋回し19時28分に着陸しました。
この事故で再離陸時に機体最後部が滑走路に接触したため機体後方底部に長さ7.6m、最大幅36cmの擦過痕が付いた他、右主脚などが損傷しました。乗員6名、乗客178名に怪我はありませんでした。
春秋航空日本では事故は起こっていません。
最後に第三者機関が評価した春秋航空の安全度を見ておきます。オーストラリアの新聞社The West Australianが運営する世界の航空会社の安全格付けサイトAirlineratings.comが発表した春秋航空と日本の主要航空会社の安全格付けは以下の通りです。なお、春秋航空日本は格付けされていません。また下の表でジェットスターはジェットスタージャパンのことです。
数字が大きいほど安全度が高く最高は7です。日本航空や中国国際航空など日中の大手航空会社は最高位にランクされています。春秋航空(中国)はそれらよりは劣りますが、大手以外の日本の航空会社と同じランキングです。ですので、日本の航空会社と同程度の安全度はあると考えて良いのではないでしょうか。